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ポッコチーヌ様のお世話係
親子②
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一方こちらは、もっちりパンもたちまち萎んでコチコチになりそうな冷えきった親子である。
しかし、取り巻く空気とは裏腹にマクシミリアンの心は静かに高揚していた。父に対して心のままに話す、そのこれまで不可能だと思い込んでいた事が出来ている、その状況に興奮を禁じ得ない。
「父上は間違っている。決して美しくない。貴方の所業は醜い。見掛けだけ取り繕っているハリボテだ」
「貴様、良くもそんな口をきけたものだな」
恐らく面と向かって批判されたことの無い男は、身を震わせた。仮面は外れかけ、醜悪な表情が覗き始める。
「お前は無知だ。籠の鳥が幾ら囀ったところで、ただの鳴き声に過ぎん」
「貴方こそ、何もご存知ない」
最早、父と呼ぶことも止めてしまった自分に気付いた。あれだけ強固だった呪縛がハラハラと解けていく。
「今の国の在り方に不満を抱えている同胞は大勢いる。今まで尽くしてきた我等に、地面を喰って糞をするしか脳がない蚯蚓と同じ席に並べなど、馬鹿にするにも程がある」
「相変わらずの酷い例えですね。それに、蚯蚓は尊い。土が肥えるのは彼等がいてこそです。その恵を知ろうともせず上で胡座をかいている者こそ恥じ入るべきだ」
マクシミリアンは怒りを滲ませる男を横柄に見下ろす。あれだけ巨大に感じた存在が、どんどんと小さく縮んでいくように思えた。
「陛下に民族平等政策の見直しを申し出るおつもりだったのでしょうが、残念ながら貴方の味方はほぼいませんよ。脅迫と買収で無理やりに従わせていただけの関係に信頼などありません。皆さん簡単に説得に応じて下さいました。寧ろ感謝なさっておいででしたよ」
ガルシア侯爵の顔色がどす黒く変わっていく。ゆっくりと周囲を睨めつける男から、数人の来賓が目を逸らした。その強ばった横顔に、マクシミリアンは追い打ちをかける。
「私達への洗脳が不完全だったのです。貴方は失敗したんだ」
ガルシア侯爵は顔を戻し、怪訝そうにマクシミリアンを窺った。その表情には怯えが見え隠れする。
「私達……?」
その時、盛大な音を立てて扉が開け放たれた。
ガルシア侯爵は音の出処へと視線を向ける。
マクシミリアンはその様子を静かに観察していた。
それは、先程ガルシア侯爵の手駒である男がゲルダを連れて消えた扉である筈だ。
会場がどよめき、王族専属の近衛兵が慌ただしく動く様子を目の端に捉える。
マクシミリアンは背中に彼女の存在を感じていた。
力強く温かい波動。
それは瞬く間にマクシミリアンへと染み込み、身体を包んでいく。更なる力となり、マクシミリアンの指の先、睫毛の先までも漲らせていった。
もう何も恐ろしいものはない。
マクシミリアンは背中にある翼を大きく広げた。
しかし、取り巻く空気とは裏腹にマクシミリアンの心は静かに高揚していた。父に対して心のままに話す、そのこれまで不可能だと思い込んでいた事が出来ている、その状況に興奮を禁じ得ない。
「父上は間違っている。決して美しくない。貴方の所業は醜い。見掛けだけ取り繕っているハリボテだ」
「貴様、良くもそんな口をきけたものだな」
恐らく面と向かって批判されたことの無い男は、身を震わせた。仮面は外れかけ、醜悪な表情が覗き始める。
「お前は無知だ。籠の鳥が幾ら囀ったところで、ただの鳴き声に過ぎん」
「貴方こそ、何もご存知ない」
最早、父と呼ぶことも止めてしまった自分に気付いた。あれだけ強固だった呪縛がハラハラと解けていく。
「今の国の在り方に不満を抱えている同胞は大勢いる。今まで尽くしてきた我等に、地面を喰って糞をするしか脳がない蚯蚓と同じ席に並べなど、馬鹿にするにも程がある」
「相変わらずの酷い例えですね。それに、蚯蚓は尊い。土が肥えるのは彼等がいてこそです。その恵を知ろうともせず上で胡座をかいている者こそ恥じ入るべきだ」
マクシミリアンは怒りを滲ませる男を横柄に見下ろす。あれだけ巨大に感じた存在が、どんどんと小さく縮んでいくように思えた。
「陛下に民族平等政策の見直しを申し出るおつもりだったのでしょうが、残念ながら貴方の味方はほぼいませんよ。脅迫と買収で無理やりに従わせていただけの関係に信頼などありません。皆さん簡単に説得に応じて下さいました。寧ろ感謝なさっておいででしたよ」
ガルシア侯爵の顔色がどす黒く変わっていく。ゆっくりと周囲を睨めつける男から、数人の来賓が目を逸らした。その強ばった横顔に、マクシミリアンは追い打ちをかける。
「私達への洗脳が不完全だったのです。貴方は失敗したんだ」
ガルシア侯爵は顔を戻し、怪訝そうにマクシミリアンを窺った。その表情には怯えが見え隠れする。
「私達……?」
その時、盛大な音を立てて扉が開け放たれた。
ガルシア侯爵は音の出処へと視線を向ける。
マクシミリアンはその様子を静かに観察していた。
それは、先程ガルシア侯爵の手駒である男がゲルダを連れて消えた扉である筈だ。
会場がどよめき、王族専属の近衛兵が慌ただしく動く様子を目の端に捉える。
マクシミリアンは背中に彼女の存在を感じていた。
力強く温かい波動。
それは瞬く間にマクシミリアンへと染み込み、身体を包んでいく。更なる力となり、マクシミリアンの指の先、睫毛の先までも漲らせていった。
もう何も恐ろしいものはない。
マクシミリアンは背中にある翼を大きく広げた。
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