ポッコチーヌ様のお世話係〜最強美形の騎士団長は露出狂でした~

すなぎ もりこ

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ポッコチーヌ様のお世話係

決戦当日①

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 ゲルダは顎下の鋲をカチリと填めた。普段は三つ目までは外しておくのだが、今日ばかりはそういう訳にはいかない。太ももの中程までの騎士上衣の上から剣のホルダーを装着する。流石にバスターソードは晩餐会場へ持ち込めないらしく、携帯するのは細身の剣だ。
 ゲルダは、真新しい白いブーツの踵を鳴らす。足元が普段と違うのは少し不安だが、この程度の違和感は慣れてみせる。
 ゲルダは更衣室のドアを開けて廊下へ出た。
 暫く進むと、前方にニコライの背中が見え、ゲルダは声を掛ける。ニコライは振り向き、大袈裟に両手を広げて見せた。

「おお、すげぇな。いつにも増して迫力がある!」
「どういう意味ですか」

 追いついたゲルダがニコライと向かい合う。いつもは見上げるその顔がほぼ同じ目線にある。

「でけぇな。それが、王妃殿下から贈られたっていうシークレットブーツか?」

 ニコライが目線を下へ向けた。

「ええ。多少動きづらいけれど、せっかくのご厚意を無駄にする訳にはいきませんから」
「上から見下ろされたらガルシア侯爵は嫌だろうなぁ。さすが王妃様、陰湿だぜ」
「不敬ですよ」

 二人は並んで歩き出す。窓の外は昼を少し過ぎたところだ。晩餐会が始まるまであと数時間余り。マクシミリアン、ニコライ、ゲルダ以外の白騎士は、朝から総出で王宮に詰めている。

「あいつら、ボロ出してなきゃ良いけどなぁ」
「こんな長時間に渡って猫をかぶるのは辛いでしょうねぇ」

 白という上品な色とは裏腹に、良く言えばのびのび、悪く言えばガサツな白騎士団の面々である。お偉方が行き交う王宮内で、さぞやケツの痒い思いをしていることだろう。

「お前、緊張してねぇの」
「今からしてどうするんです?それに、騎士の心得ですよ。どんな時も平常心忘れるべからず」
「肝据わってんな。お前のがよっぽど団長に向いてるよ」
「有り得ません」

 ニコライは黙って鼻を掻く。やがてマクシミリアンの部屋が見えてきて、ゲルダは進み出た。その背後からニコライが声を掛ける。

「なあ、ゲルダ。やっぱり惜しいよ、お前。こっそり俺の愛人にならねぇ?」
「私は誰の愛人にもなるつもりはありません」
「お手当て弾むのに」

 ゲルダはニコライに身体を向けると、腕を組み眉を上げた。

「金では動きません。私が望むのは自由。自分の言葉で語り、自らの足で進む。進む先は己で決める」
「マクシミリアンと同じだな」
「ええ。私はそれを手に入れつつあります。ですから、その素晴らしさを知っている。団長にも是非味わって頂きたいものです」
「……お前達を引き裂く俺を、恨むなら恨め。俺だけ無傷なんて寝覚めが悪ぃ」

 ゲルダは苦笑いする。柄にもなくセンチメンタルになっているニコライに背中を向けながら、明るく言い放った。

「恨んだって貴方の事だから、ちょっとも響かないでしょう。私の事なんて鼻くそをほじるが如く掻き出して弾き飛ばして終わりです」
「ひでぇ」
「副団長はそれで良いんですよ」

 ニコライがガシガシと頭を惜く気配がする。ゲルダは背筋を伸ばし、飴色の扉をノックした。



 マクシミリアンは既に準備を整えていた。サラサラのブロンドは髪油で後ろへ撫でつけられ、形の良い額と眉が顕になっている。
 ゲルダはその、神々しいばかりの威厳を纏った姿に惚れ惚れした。
 マクシミリアンは白手袋を嵌めながら、テーブルの上に置かれていた封書へと視線を促す。

「朝一番で姉上からの密偵が届けに来た。ガルシア侯爵が買収した出席者のリスト追加分だ」

 ニコライが歩み寄り、それを開いて目を通した。

「直前でこちらへ引き込むのは骨が折れるな。事前に貰った分は王妃と俺の方で対処済みだが」
「侯爵の気を削ぐのには充分では?数人でしょう?」
「数人でもゲルダを笑う者は我慢ならん。また手が出るやもしれん」
「大丈夫ですよ。私の耳は聞きたくない音が素通りするように出来ているんです」

 肩をすくめるゲルダにマクシミリアンが近付き、頬に手をあてる。

「汚い声がお前を語ることが許せない……今日はいつにも増して凛々しいな」

 顔を寄せてくるマクシミリアンを、ゲルダがそっと諌める。

「壁紙が見ております」
「所詮壁紙だ」
「いい加減、壁紙扱い止めてくんねぇ?」

 マクシミリアンはそっと唇を合わせると、離れた。エメラルドの瞳が愛おしげにゲルダを見ている。

「名残り惜しいが、続きは今晩にとっておこう」
「ええー、騎士団上げての酒盛りじゃねぇのかよ」
「俺はゲルダと二人っきりで祝杯を上げる」
「薄情な奴!ふんっ!男同士の友情なんてそんなもんだよな!」

 ニコライは口を尖らせた。その子供のような振る舞いを見て笑うゲルダの腕を、マクシミリアンが掴み、傍らで囁く。

「ゲルダは俺が守る。命に替えても」
「団長の手を煩わせる事が無きよう、必ずや勝利します。私の実力はご存知でしょう?」
「ゲルダは強い。だが、心配だ」
「信じてください」

 微笑むゲルダにマクシミリアンは頷いた。そして、唇を引き結び真っすぐ前を向く。
 ゲルダはその視線の先へと進み出ると、恭しくノブを引いた。

「では、参りましょう。決戦の舞台へ」
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