ポッコチーヌ様のお世話係〜最強美形の騎士団長は露出狂でした~

すなぎ もりこ

文字の大きさ
上 下
36 / 97
ポッコチーヌ様のお世話係

自覚した気持ち①

しおりを挟む
「何故そうなりますか。元恋人と団長では違います」
「俺とお前は朝から晩まで行動を共にし、夜だって一緒に寝てる!」

 そう言われてみると、確かに親密な関係だ。
 一般的な恋人、夫婦以上に共に過ごす時間が長いかもしれない。
 しかし、あくまでもゲルダはマクシミリアンの側近であり、世話係である。
 長きに渡るストレスとトラウマによりナルシスト怪人に変わり果てていた彼に、本来の自分を取り戻してもらいたい。そう願う親友のニコライ副団長に依頼され、手を貸すことを引き受けた。いや、半ば押し付けられたのであるが。
 添い寝係など予想外のオプションは発生したが、境界線は未だ死守していると思っている。己の立場をわきまえることを常に念頭に置いているのだから。
 しかし、口付けは明らかにアカンと思う。

「私は団長に親愛の情を持って接しております。お疑いですか?」
 
  ゲルダが胸を張り告げれば、マクシミリアンはベッドから立ち上がり、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
 寝崩れて首元が大きく開いたシャツのまま。
 ゲルダは美青年から漂う全てを拒むように五感を抑制し、身構えた。
 
 マクシミリアンは顔にかかった薄い色味のプラチナブロンドをかきあげる。
 美しく跳ね上がる眉と切れ長の大きな瞳が全貌を現し、挑むようにゲルダを見下ろした。

 ゲルダはふぐ、と息を止める。至近距離に迫る圧倒的な美貌に制御は脆くも揺らぎ始めた。それでも呑まれぬよう、必死に抗う。
 
 やがて、紅く滲む唇がゆっくりと開き、吐息と共に彼の音が吐き出される。
 そしてそれには、初めて聞く艶めかしい色が乗っていた。

「疑ってはいない。……足りないだけだ」



 ゲルダは、咄嗟に鼻と口を覆う。そうしないと何か色々出てしまいそうだった。

 くっそ、この無自覚エロ天使め!!

 ゲルダはマクシミリアンをキッと睨むと、その肩をガシッと掴んだ。そして、物凄い勢いで額に唇をつけると、素早く後方へ飛び退いた。
 突然のことに硬直し、エメラルド色の瞳を見開くマクシミリアンだったが、やがて、それは嬉しそうに微笑んだ。
 まさしく、一斉に可憐な花が綻ぶように。

「ゲルダ、では俺からも……」

 手を伸ばすマクシミリアンから顔を背け、ゲルダは口を覆う。
 頬がとてつもなく熱かった。

「朝食を取って参りますので!」
「後で良いじゃないか……」
「冷めてしまうので!」




 逃げるように部屋を後にした。
 鼓動がびっくりするような速さで打ち、全身を走る血管がどくどくと波打っている。

「マズイマズイ、これは、マズイ……」

 そう呟きながらも、心が、甘くときめき舞い上がるのを止められない。
 ゲルダは遂にヨロヨロと廊下に屈みこんだ。膝に顔を埋めて、長く熱い息を吐く。

 なんて事だ、これはきっと恋だ。

 確実にそうだ。もう誤魔化せない。
 そうだ、マクシミリアンを甘やかせて可愛がる内に、愛しさが積もり積もってしまったのだ。
 それだけでは無い、強くあろうと恐怖に立ち向かう健気な姿、己の矜持に従い正義を為そうとする真っ直ぐな心持ち、誰かを護ろうとする男気……数々のマクシミリアンの行動が、ゲルダの心を急速に引き寄せた。

「どうすんのよ……!」

 こうなったからにはお役目を辞退するしかないのだが、マクシミリアンが承諾するとは思えない。
 ゲルダはマクシミリアンの精神の安定に貢献している、それは疑いようがないからだ。
 しかし、生粋のフィルド人で名門ガルシア家の嫡男と奴隷上がりのシャンピニ女の恋愛など、誰も望まない、祝福しない。お互いにとって危険なだけだ。それどころか、王宮まで巻込む大問題になりかねない。
 ゲルダは、フラフラと立ち上がり、直ぐ近くにある副団長の執務室へと向かう。
 頼れる人物は、彼しかいなかった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】ドジっ子のうさみみメイドは、なぜか強面魔王さまの膝に転んじゃう

楠結衣
恋愛
強面な魔王さまに拾われたうさぎ獣人のメイドは、頑張って働いて大好きな魔王さまのお役に立ちたいのに、いつも失敗ばっかり。 今日も魔王城で一生懸命働くつもりが、なぜか強面魔王さまの膝の上に転んじゃって……。 「全く、お前は俺に抱かれたいのか?」 「も、も、申し訳ございませんんん!!!」 強面なのに本音がポロポロこぼれる魔王さまとうさみみをぷるぷる震わせるドジっ子うさぎ獣人メイドのいちゃこら溺愛ハッピーエンドです。 ✳︎一話完結の短編集です ✳︎表紙イラストは、りすこ様に描いていただきました ✳︎管澤捻さまのツイッター企画『#架空の小説タイトルからイラストを描く』で参加した架空のタイトル「ドジっ子うさぎちゃんメイドは頑張って働きたいのに、なぜか強面魔王さまの膝の上に転んじゃう」におはなしを添えたものです。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...