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ポッコチーヌ様のお世話係
オクトパールの少女③
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たちまち頬が熱くなり、ゲルダは慌てて俯く。思わず力が入り、少女の小さな手を握りしめてしまった。
ゲルダは紅潮した顔を隠すようにマクシミリアンに背を向けると、道に膝を付いて少女と向き合う。
「平気?」
少女はおずおずと頷き、そっとストールを捲った。シャンピニより更に濃い小麦色の肌が現れた。弓形の濃い眉とくりくりの琥珀の瞳。隣国オクトパールの子供に間違いない。歳は五つ位だろうか。少女はおずおずと訊ねた。
「おねえちゃんはこのくにのひと?」
「そうだよ」
「ちょっといろがちがう」
「まあね。でも、間違いなくこの国の人間だよ。お嬢ちゃんはオクトパールから来たの?」
「うん。オクトパールでせんそうがはじまったから、かぞくでにげてきた。けど、たべるものがなくなって、おとうとがすごくないて」
「あのおじちゃんが食べ物をくれるって?」
少女はうん、と答えるときゅっと口を引き結んだ。
いつの間にか背後に立っていたマクシミリアンが、ゲルダの隣に腰を下ろす。
「俺たちがもっと美味いものを食わせてやろう。君の家族と仲間にもな」
マクシミリアンは躊躇なく手を差し出し、少女の頭に手を乗せた。
まるで物語から飛び出してきたような美しい騎士の登場に、少女はぽっかりと口を開けて、わかりやすく惚けている。
「外交省に要請しますか」
ゲルダがそっと訊ねると、マクシミリアンは頷いた。
そこで、ようやく五番町へ聞き込みに行っていた団員が戻り、状況を見て残念そうに声をあげる。
「あっれー?!片付いちまってるー!」
「団長が一発入れて伸びちまったんだよ」
「ええーー!くっそぅ、貴重な瞬間見たかったなぁ」
「店の方はどうだった?」
「店も女も実在しましたけど、アドニスは御歳八十のバーサンでした。子供も孫もいないそうです」
「八十?!」
「熟女バーです。つーか、ババァバーでした」
「お前、口を慎めよ」
ゲルダは吹き出しながら、再び少女の手を繋いで立ち上がった。
「さっきのオジサンは悪い人だったんだよ。ついてかなくて良かったね」
「おねぇちゃんたちはよいひと?へいたいさん?」
「うんまあ、そんなとこかな。この国では騎士って言うんだけどね。国と国民を護るお仕事だよ。ねえ、おじさんのお話をもう少し聞かせてもらって良いかな?後でちゃんと家族の所へ送っていくから」
「うん、いいよ」
少女は大きな目をぱちぱちして、口角を上げた。両頬に現れた笑窪が可愛い。釣られて微笑むゲルダに、少女が訊ねた。
「ねえ、おねえちゃん、あのひと、おうじさま?」
少女の視線はマクシミリアンに向けられている。
「あはは、王子様かぁ、確かにそう見えるかもね。だけどお姉ちゃんと同じ騎士なんだよ」
「おねえちゃんとぜんぜんちがうね」
「うん。そうだね」
ゲルダは何が違うのか、訊かなかった。
その曇りのない琥珀の目から見た違いがどんなものなのか、知るのが怖かった。
ゲルダは紅潮した顔を隠すようにマクシミリアンに背を向けると、道に膝を付いて少女と向き合う。
「平気?」
少女はおずおずと頷き、そっとストールを捲った。シャンピニより更に濃い小麦色の肌が現れた。弓形の濃い眉とくりくりの琥珀の瞳。隣国オクトパールの子供に間違いない。歳は五つ位だろうか。少女はおずおずと訊ねた。
「おねえちゃんはこのくにのひと?」
「そうだよ」
「ちょっといろがちがう」
「まあね。でも、間違いなくこの国の人間だよ。お嬢ちゃんはオクトパールから来たの?」
「うん。オクトパールでせんそうがはじまったから、かぞくでにげてきた。けど、たべるものがなくなって、おとうとがすごくないて」
「あのおじちゃんが食べ物をくれるって?」
少女はうん、と答えるときゅっと口を引き結んだ。
いつの間にか背後に立っていたマクシミリアンが、ゲルダの隣に腰を下ろす。
「俺たちがもっと美味いものを食わせてやろう。君の家族と仲間にもな」
マクシミリアンは躊躇なく手を差し出し、少女の頭に手を乗せた。
まるで物語から飛び出してきたような美しい騎士の登場に、少女はぽっかりと口を開けて、わかりやすく惚けている。
「外交省に要請しますか」
ゲルダがそっと訊ねると、マクシミリアンは頷いた。
そこで、ようやく五番町へ聞き込みに行っていた団員が戻り、状況を見て残念そうに声をあげる。
「あっれー?!片付いちまってるー!」
「団長が一発入れて伸びちまったんだよ」
「ええーー!くっそぅ、貴重な瞬間見たかったなぁ」
「店の方はどうだった?」
「店も女も実在しましたけど、アドニスは御歳八十のバーサンでした。子供も孫もいないそうです」
「八十?!」
「熟女バーです。つーか、ババァバーでした」
「お前、口を慎めよ」
ゲルダは吹き出しながら、再び少女の手を繋いで立ち上がった。
「さっきのオジサンは悪い人だったんだよ。ついてかなくて良かったね」
「おねぇちゃんたちはよいひと?へいたいさん?」
「うんまあ、そんなとこかな。この国では騎士って言うんだけどね。国と国民を護るお仕事だよ。ねえ、おじさんのお話をもう少し聞かせてもらって良いかな?後でちゃんと家族の所へ送っていくから」
「うん、いいよ」
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「あはは、王子様かぁ、確かにそう見えるかもね。だけどお姉ちゃんと同じ騎士なんだよ」
「おねえちゃんとぜんぜんちがうね」
「うん。そうだね」
ゲルダは何が違うのか、訊かなかった。
その曇りのない琥珀の目から見た違いがどんなものなのか、知るのが怖かった。
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