26 / 97
ポッコチーヌ様のお世話係
団長は可愛い③
しおりを挟む
ゲルダは苦笑いすると通りに視線を移す。なるほど、若い娘達がそこかしこに集まり、こちらを見て騒いでいる。美貌の白騎士団長は街でも大人気らしい。
「団長のファンクラブですか」
「そんなものはない」
「手でも振ってさしあげれば?彼女たち喜びますよ」
「何故そんな事をする必要がある」
「サービスです。騎士団の印象が良くなるかも」
「いやだ。誰かれ構わず愛嬌を振りまくのは疲れる。もうやりたくない」
眉を寄せるマクシミリアンの背中をそっとさすれば、一際高い声が方々から上がった。
「何ですか?私、何かまずいことをしました?」
背後のニコライと団員に小声で問えば、二人はニヤニヤ笑って返す。
「ほーらな、予想通り」
「お前らは目立つんだよ」
「は?じゃあ、場所を代わってください」
「駄目だ、ゲルダは俺の横にいるのだ」
マクシミリアンはムウと口を結び、ゲルダの袖を引く。
するとまた、うぎゃあーっという乙女らしからぬ声が耳に飛び込んできた。戸惑うゲルダに、ニコライが提案する。
「ゲルダ、手を振ってみろよ」
「は?私がですか?」
訳も分からないまま、ゲルダは沿道に向けて手を振ってみる。すると、娘たちが叫び、抱き合ってぴょんぴょん跳ねだした。ゲルダはギョッとして振り返る。
「な、何ですかあれ?」
「ゲルダのファンだな」
団員は得意げに胸を張った。
「言っただろうよ。美貌の団長に寄り添う長身美女騎士、そりゃあ観衆の目を攫うってもんよ!」
「並ぶだけで白騎士団の看板だなぁ、こりゃ」
ゲルダは目を瞬いた。確かに自分は女にしては背が高すぎる。騎士になるにあたっては有利に働いた特徴ではあるが、美女というのはどうなのか。女としては容姿よりシャンピニであることが注目されてきたこれまでの人生である。プライベートでは同族以外との交流が殆どなかったから、自分が肌の白い人々にどう見られているかなど気にしたことが無かった。
呆けるゲルダの袖をマクシミリアンが再び引っ張る。
「ゲルダ、手など振らなくて良い。それより不審な者や諍いがないか目を光らせろ」
「あ、はい。そうですよね」
ゲルダは慌てて再び街を見渡した。通り過ぎる人々の視線がやたらと気になったが、懸命に集中する。その内、まったく目に入らなくなった。
「今のところ問題は無いようですね」
メインストリートの終着地である公園で、四人は一旦足を止め、この後のルートを話し合う。
「五番町で輸入禁止のエールを出す店があるらしい。悪酔いするらしく、医院に担ぎ込まれた者もいるとか」
「西端の工場跡地にはゴロツキが住み着いていると聞きました。今のところ実害はないようだけど」
「酒場は現場を押さえるのが望ましい。夜間担当に任せよう。先日の団長会議によれば、西端は隣国から流れ込んだ難民の溜まり場になっているようだ。外交省の管轄なので下手に手は出せんな」
何の情報も持たないゲルダは、先輩騎士の話を黙って興味深く聞いていた。マクシミリアンを見れば、顔色も良く落ち着いている。
ゲルダはホッとして公園に視線を向けた。柔らかな日差しの中で多くの人々が笑顔で寛いでいる。まるで、この国の平和を象徴しているかのような長閑な光景である。
その時、ふと目の端に映ったものがあった。
ゲルダはその二人連れにたちまち意識を囚われる。ストールを深く被った少女と、その手を引く労働者風の男。一見親子に見えるが、掌を合わせるのではなく手首を掴む手の繋ぎ方が気になった。
ゲルダの視線に気付いたマクシミリアンが問う。
「どうした?」
「あれは、親子だと思われますか」
三人はゲルダの目線を追う。
「駄々こねる娘を引っ張ってんじゃねぇの」
「あのように厚着をしているのも気になります。今日は暖かいし、日除けをするほど日差しは強くない」
「何かを隠していると?」
「話を聞こう」
ニコライが団員を呼び、二人の元へと向かう。マクシミリアンもゆっくりと後を追う。ゲルダもそれに続いた。
「団長のファンクラブですか」
「そんなものはない」
「手でも振ってさしあげれば?彼女たち喜びますよ」
「何故そんな事をする必要がある」
「サービスです。騎士団の印象が良くなるかも」
「いやだ。誰かれ構わず愛嬌を振りまくのは疲れる。もうやりたくない」
眉を寄せるマクシミリアンの背中をそっとさすれば、一際高い声が方々から上がった。
「何ですか?私、何かまずいことをしました?」
背後のニコライと団員に小声で問えば、二人はニヤニヤ笑って返す。
「ほーらな、予想通り」
「お前らは目立つんだよ」
「は?じゃあ、場所を代わってください」
「駄目だ、ゲルダは俺の横にいるのだ」
マクシミリアンはムウと口を結び、ゲルダの袖を引く。
するとまた、うぎゃあーっという乙女らしからぬ声が耳に飛び込んできた。戸惑うゲルダに、ニコライが提案する。
「ゲルダ、手を振ってみろよ」
「は?私がですか?」
訳も分からないまま、ゲルダは沿道に向けて手を振ってみる。すると、娘たちが叫び、抱き合ってぴょんぴょん跳ねだした。ゲルダはギョッとして振り返る。
「な、何ですかあれ?」
「ゲルダのファンだな」
団員は得意げに胸を張った。
「言っただろうよ。美貌の団長に寄り添う長身美女騎士、そりゃあ観衆の目を攫うってもんよ!」
「並ぶだけで白騎士団の看板だなぁ、こりゃ」
ゲルダは目を瞬いた。確かに自分は女にしては背が高すぎる。騎士になるにあたっては有利に働いた特徴ではあるが、美女というのはどうなのか。女としては容姿よりシャンピニであることが注目されてきたこれまでの人生である。プライベートでは同族以外との交流が殆どなかったから、自分が肌の白い人々にどう見られているかなど気にしたことが無かった。
呆けるゲルダの袖をマクシミリアンが再び引っ張る。
「ゲルダ、手など振らなくて良い。それより不審な者や諍いがないか目を光らせろ」
「あ、はい。そうですよね」
ゲルダは慌てて再び街を見渡した。通り過ぎる人々の視線がやたらと気になったが、懸命に集中する。その内、まったく目に入らなくなった。
「今のところ問題は無いようですね」
メインストリートの終着地である公園で、四人は一旦足を止め、この後のルートを話し合う。
「五番町で輸入禁止のエールを出す店があるらしい。悪酔いするらしく、医院に担ぎ込まれた者もいるとか」
「西端の工場跡地にはゴロツキが住み着いていると聞きました。今のところ実害はないようだけど」
「酒場は現場を押さえるのが望ましい。夜間担当に任せよう。先日の団長会議によれば、西端は隣国から流れ込んだ難民の溜まり場になっているようだ。外交省の管轄なので下手に手は出せんな」
何の情報も持たないゲルダは、先輩騎士の話を黙って興味深く聞いていた。マクシミリアンを見れば、顔色も良く落ち着いている。
ゲルダはホッとして公園に視線を向けた。柔らかな日差しの中で多くの人々が笑顔で寛いでいる。まるで、この国の平和を象徴しているかのような長閑な光景である。
その時、ふと目の端に映ったものがあった。
ゲルダはその二人連れにたちまち意識を囚われる。ストールを深く被った少女と、その手を引く労働者風の男。一見親子に見えるが、掌を合わせるのではなく手首を掴む手の繋ぎ方が気になった。
ゲルダの視線に気付いたマクシミリアンが問う。
「どうした?」
「あれは、親子だと思われますか」
三人はゲルダの目線を追う。
「駄々こねる娘を引っ張ってんじゃねぇの」
「あのように厚着をしているのも気になります。今日は暖かいし、日除けをするほど日差しは強くない」
「何かを隠していると?」
「話を聞こう」
ニコライが団員を呼び、二人の元へと向かう。マクシミリアンもゆっくりと後を追う。ゲルダもそれに続いた。
11
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる