上 下
25 / 97
ポッコチーヌ様のお世話係

団長は可愛い②

しおりを挟む
「街に出るのは久しぶりだ」

 手に嵌めた白い手袋を指を動かして馴染ませながら、マクシミリアンは呟いた。多少顔が強ばってはいるが、外出の準備をする様子はテキパキと澱みない。

「散歩に行くわけじゃねぇぞ、巡回だ 」
「知っている。お前と一緒にするな」
「団長、中央広場のカフェで飯食いましょう、奢って下さい」
「何だお前は、図々しい」

 叱られた団員は嬉しそうにエヘヘと笑う。

「だって、嬉しいんっすよ。久しぶりに団長と巡回出来るんですから。当番で良かったー!俺ラッキー!」
「何がそんなに嬉しいのだ」

 マクシミリアンは浮き立つ部下を怪訝そうに見ている。

「そりゃあ、お前が街を歩けば皆注目するからな。若い娘がこぞってきゃあきゃあ騒ぐ」
「注目されるのは俺でお前じゃないだろう。それに、俺は騒がれたくなんかない。街の治安を守るための仕事だぞ。こっちが観察しなきゃならんのに」
「まあまあ、万年むさ苦しい男共に囲まれている可哀想な部下にお零れくらいくれてやれよ」

 男たちがくだらない会話に興じる様子を、ゲルダは生温かい目で見つめていた。マクシミリアンの調子は良さそうだし、このまま和気あいあいとした雰囲気で巡回を終えられたら良いと願う。

「ゲルダ、行くぞ。お前は俺の隣に来い」
「はい」

 ゲルダはマクシミリアンの元へ走り寄る。騎士団本部の門を抜け、堀に掛かった橋を渡れば、そこはもう城下町だ。荷馬車や人が行き交い、通りには小端積み壁の商店が建ち並ぶ。王都に来て以来、じっくり観光する暇もなかったゲルダは、キョロキョロと辺りを見回した。

「物珍しそうだなぁ、ゲルダ。街にはあまり来ないのか」

 背後から団員に問われ、ゲルダは答える。

「実はそうなんですよ。なかなか見回る機会が無くて」

 宿舎は城下町とは城を挟んで真逆の方向にある。日が暮れてから一人で足を運ぶのは面倒だったし、誰か誘おうにも途中採用で研修生扱いのゲルダには親しい者はいなかった。休日に王立図書館や公園へ足を伸ばすことはあったが、洗練された街の中となれば、粗末で地味な私服では悪目立ちしてしまう気がして怖気付いてしまった。

「今度飲みにでも連れてってやるさ」
「私は酒を飲まないのですが」
「飯も美味いぞ。歌や芝居を楽しむ店もある」
「へぇ!」
「ゲルダ、無駄口を叩くな」

 背後を振り返り会話するゲルダの腕をマクシミリアンが掴む。

「すいません」
「街なら俺が連れていってやる」

 ゲルダはマクシミリアンの横顔をまじまじと見つめた。

「大丈夫なんですか?」
「多分」
「そんなんじゃ安心出来ませんよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一途な溺愛が止まりません?!〜従兄弟のお兄様に骨の髄までどろどろに愛されてます〜

Nya~
恋愛
中立国家フリーデン王国のたった一人の王女であるプリンツェッスィン・フリーデンには六つ上の従兄のヴァール・アルメヒティヒがいた。プリンツェッスィンが生まれてこの方親のように、いや親以上にヴァールが彼女のお世話をしてきたのだ。そしてある日二人は想いが通じるが、一筋縄ではいかない理由があって……?◇ちゃんとハッピーエンドなので安心して見れます!◇一途な溺愛が止まりません?!シリーズ第二弾!従兄×従妹の話になります!第一弾の「一途な溺愛が止まりません?!〜双子の姉妹は双子の兄弟にとろとろに愛されてます〜」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/721432239/761856169)の続編になります。第一弾を見なくても一応話は通じるようにはしてますが、第一弾を読了後だとなお分かりやすいと思うので、是非第一弾も読んでみてください!◇※本番以外の軽度描写は☆、本番Rは★をタイトル横につけてます。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

【R18】出来損ないの魔女なので殿下の溺愛はお断りしたいのですが!? 気づいたら女子力高めな俺様王子の寵姫の座に収まっていました

深石千尋
恋愛
 バーベナはエアネルス王国の三大公爵グロー家の娘にもかかわらず、生まれながらに魔女としての資質が低く、家族や使用人たちから『出来損ない』と呼ばれ虐げられる毎日を送っていた。  そんな中成人を迎えたある日、王族に匹敵するほどの魔力が覚醒してしまう。  今さらみんなから認められたいと思わないバーベナは、自由な外国暮らしを夢見て能力を隠すことを決意する。  ところが、ひょんなことから立太子を間近に控えたディアルムド王子にその力がバレて―― 「手短に言いましょう。俺の妃になってください」  なんと求婚される事態に発展!! 断っても断ってもディアルムドのアタックは止まらない。  おまけに偉そうな王子様の、なぜか女子力高めなアプローチにバーベナのドキドキも止まらない!?  やむにやまれぬ事情から条件つきで求婚を受け入れるバーベナだが、結婚は形だけにとどまらず――!?  ただの契約妃のつもりでいた、自分に自信のないチートな女の子 × ハナから別れるつもりなんてない、女子力高めな俺様王子 ──────────────────── ○Rシーンには※マークあり ○他サイトでも公開中 ────────────────────

【R18】姫さま、閨の練習をいたしましょう

雪月華
恋愛
妖精(エルフ)の森の国の王女ユーリアは、父王から「そろそろ夫を迎える準備をしなさい」と命じられた。 それを幼いころから共に育った犬耳の従者クー・シ―(犬妖精)族のフランシスに告げると、彼は突然「閨の練習をしましょう」と言い出して!?天真爛漫な姫と忠犬従者の純愛ラブコメ。R18表現多。 第一部(姫と犬君が全話でいちゃらぶ)。第二部(姫の政略婚のゆくえ)。 お互いが大好きな可愛いい主従のいちゃらぶ。リクエストを頂き第二部も追加。 ムーンライトノベルズにも掲載。

【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく

愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。 貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。 そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。 いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。 涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。 似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。 年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。 ・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。 ・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・多分ハッピーエンド。 ・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

処理中です...