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ポッコチーヌ様のお世話係
団長は可愛い①
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可愛い……
ゲルダはあどけない寝顔を見て口元を綻ばせた。じっくり鑑賞したいが、そうはいかない。
ゲルダは白騎士団長の側近。彼が団長として正常に機能するよう助けるのが仕事だ。
ベッドを回り込み、カーテンを開ける。朝の柔らかな光が白いシーツに落ちてゆらゆらと揺れた。長く不揃いな睫毛が震え、薄桃の唇から微かな呻き声が漏れる。毎度の事ながら、神々しいほどの美しさだ。
「団長、朝です」
「んん……ゲルダ」
睫毛の下から現れた鮮やかなエメラルド。焦点が定まらないまま顔を動かしゲルダを探す。やがて、窓辺に立つゲルダを見付けたマクシミリアンは、眩しそうに目を細めて、微笑んだ。
「おはよう、ゲルダ」
っんじゃぁこりゃぁ!可愛いぃぃー!憤死するーー!
「本日は良いお天気ですよ」
煩悩を隠しながら、ゲルダも笑顔を返す。そして、身体を起こしたマクシミリアンの足元に着替えを置くと、洗面用の桶を台に乗せた。
まるで侍女の仕事だが致し方ない。
こうしてみると、ちょっと小洒落た宿の一室にも見えるが、ここは間違いなく騎士団長用の執務室である。騎士には城外に宿舎が用意されているが、騎士団本部には寝泊まりする機能は与えられていない。故に侍女も配属されてなどいないのだ。
騎士の仕事としては些か異色だが、ゲルダは不満を感じてはいない。奴隷時代に家事は叩き込まれたので難なくこなせるし、鍛錬する時間も確保してもらっている。
そして何より、マクシミリアンのお世話は楽しい。最初は過剰ナルシストの変態だとしか思えなかったが、隠された事情を知り、その心を覗くごとに印象は変わっていった。
最近では寝間着を着用するようになったマクシミリアンが、俯いてボタンをゆっくりと外している。ゲルダはその無防備な姿に顔を緩める。
「気温が下がってきましたので、朝食のミルクは温めてもらいました」
「ホットミルクは好きだが、たまに舌を火傷してしまう」
「猫舌なんですか(かっわいー)」
「うん」
うん、だって!かっわいー!
ゲルダは朝食の乗ったワゴンを押しながら、悶えた。
そう、このマクシミリアンと言う男は、とてつもなく可愛いのだ。力は強く筋肉もしっかりついているのだが、着痩せするタイプらしく小柄で華奢に見える。そして、なんと言っても顔が可愛い。
それに加え、ゲルダに心を開き始めた最近のマクシミリアンは、まるで幼児のように素直で無邪気なのだ。
水桶で顔を濡らしたマクシミリアンが、目を瞑ったままさ迷わせる手に、ゲルダは手拭いを握らせた。マクシミリアンはそれを顔に押し当て、わしわしと水分を拭き取る。そして、当たり前のようにゲルダに向かって顔を突き出した。ゲルダはその完璧な造形の顔に布を当てていく。生え際、高い鼻の横、目尻、口周り……
「はい、宜しいですよ」
「ありがとう」
過保護であることはわかっている。可愛らしい見た目をしているとは言え、マクシミリアンはゲルダより五つも歳上の成人男性であり、文武に秀でた高貴な身分でなんといっても騎士団長なのだ。
しかし、母親と早くに離れ、温かな愛情を充分に体験しないまま成長したマクシミリアンには、甘える経験が必要だとも思う。
自分は愛され大切にされる存在であると知って欲しい。
その自分を尊ぶ気持ちが、ニコライがいうところの“本来の自分を取り戻す”ことに繋がるのではないか。
だから、ゲルダはマクシミリアンを甘やかす。わがままを受け入れて許すことにしたのだ。
着替えを終えてテーブルについたマクシミリアンの前に、朝食のプレートを置く。
フゥフゥとカップに息を吹きかける、その尖った口元を見て、ゲルダはそっと胸を押さえる。
どうしようもなく庇護欲をそそられるこの上司に対し、たまに境界線を越えそうになる。行き過ぎた行為はいずれ足枷になる。その加減を慎重に見極めなければならない。
ゲルダはマクシミリアンの傍にありながら、常に自分を戒めていた。
ゲルダはあどけない寝顔を見て口元を綻ばせた。じっくり鑑賞したいが、そうはいかない。
ゲルダは白騎士団長の側近。彼が団長として正常に機能するよう助けるのが仕事だ。
ベッドを回り込み、カーテンを開ける。朝の柔らかな光が白いシーツに落ちてゆらゆらと揺れた。長く不揃いな睫毛が震え、薄桃の唇から微かな呻き声が漏れる。毎度の事ながら、神々しいほどの美しさだ。
「団長、朝です」
「んん……ゲルダ」
睫毛の下から現れた鮮やかなエメラルド。焦点が定まらないまま顔を動かしゲルダを探す。やがて、窓辺に立つゲルダを見付けたマクシミリアンは、眩しそうに目を細めて、微笑んだ。
「おはよう、ゲルダ」
っんじゃぁこりゃぁ!可愛いぃぃー!憤死するーー!
「本日は良いお天気ですよ」
煩悩を隠しながら、ゲルダも笑顔を返す。そして、身体を起こしたマクシミリアンの足元に着替えを置くと、洗面用の桶を台に乗せた。
まるで侍女の仕事だが致し方ない。
こうしてみると、ちょっと小洒落た宿の一室にも見えるが、ここは間違いなく騎士団長用の執務室である。騎士には城外に宿舎が用意されているが、騎士団本部には寝泊まりする機能は与えられていない。故に侍女も配属されてなどいないのだ。
騎士の仕事としては些か異色だが、ゲルダは不満を感じてはいない。奴隷時代に家事は叩き込まれたので難なくこなせるし、鍛錬する時間も確保してもらっている。
そして何より、マクシミリアンのお世話は楽しい。最初は過剰ナルシストの変態だとしか思えなかったが、隠された事情を知り、その心を覗くごとに印象は変わっていった。
最近では寝間着を着用するようになったマクシミリアンが、俯いてボタンをゆっくりと外している。ゲルダはその無防備な姿に顔を緩める。
「気温が下がってきましたので、朝食のミルクは温めてもらいました」
「ホットミルクは好きだが、たまに舌を火傷してしまう」
「猫舌なんですか(かっわいー)」
「うん」
うん、だって!かっわいー!
ゲルダは朝食の乗ったワゴンを押しながら、悶えた。
そう、このマクシミリアンと言う男は、とてつもなく可愛いのだ。力は強く筋肉もしっかりついているのだが、着痩せするタイプらしく小柄で華奢に見える。そして、なんと言っても顔が可愛い。
それに加え、ゲルダに心を開き始めた最近のマクシミリアンは、まるで幼児のように素直で無邪気なのだ。
水桶で顔を濡らしたマクシミリアンが、目を瞑ったままさ迷わせる手に、ゲルダは手拭いを握らせた。マクシミリアンはそれを顔に押し当て、わしわしと水分を拭き取る。そして、当たり前のようにゲルダに向かって顔を突き出した。ゲルダはその完璧な造形の顔に布を当てていく。生え際、高い鼻の横、目尻、口周り……
「はい、宜しいですよ」
「ありがとう」
過保護であることはわかっている。可愛らしい見た目をしているとは言え、マクシミリアンはゲルダより五つも歳上の成人男性であり、文武に秀でた高貴な身分でなんといっても騎士団長なのだ。
しかし、母親と早くに離れ、温かな愛情を充分に体験しないまま成長したマクシミリアンには、甘える経験が必要だとも思う。
自分は愛され大切にされる存在であると知って欲しい。
その自分を尊ぶ気持ちが、ニコライがいうところの“本来の自分を取り戻す”ことに繋がるのではないか。
だから、ゲルダはマクシミリアンを甘やかす。わがままを受け入れて許すことにしたのだ。
着替えを終えてテーブルについたマクシミリアンの前に、朝食のプレートを置く。
フゥフゥとカップに息を吹きかける、その尖った口元を見て、ゲルダはそっと胸を押さえる。
どうしようもなく庇護欲をそそられるこの上司に対し、たまに境界線を越えそうになる。行き過ぎた行為はいずれ足枷になる。その加減を慎重に見極めなければならない。
ゲルダはマクシミリアンの傍にありながら、常に自分を戒めていた。
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