ポッコチーヌ様のお世話係〜最強美形の騎士団長は露出狂でした~

すなぎ もりこ

文字の大きさ
上 下
17 / 97
ポッコチーヌ様のお世話係

過去と罪②

しおりを挟む
「お聞かせ出来るほど面白くはございませんが」
『お父さんとお母さんは、どんな人達だったの?兄弟は?』
「両親は生粋のシャンピニです。勤め先で出会って夫婦となりました。兄弟は、兄と妹です」
『お家はどこなの』
「今は郊外のシャンピニ居住区で暮らしていますが、その当時は家族全員でとある貴族の邸宅に住んでいました。庭園の隅に小屋があって、そこで」

 ポッコチーヌは黙る。ゲルダは肩を竦めた。

「やっぱり止めましょう。それより、おすすめの御本のお話を……」
「一家で貴族の奴隷を勤めていたのか」

 ゲルダは思いがけず話に割り込んできた声に驚き、目を瞬く。マクシミリアンが真っ直ぐにこちらを見ていた。

「そ、そうです。私達が仕えるお宅は比較的奴隷に寛容でしたので、両親の結婚も許されました。父は家の警備を任されておりましたし、主人から信頼されていたようです」

 ゲルダと兄弟も、孤児院がボランティアで開いている学校に通うことを許されていた。もちろん、労働が最優先だったが。

「辛い目にはあっていなかったのか」
「ええ。それほどは……」

 ゲルダは笑って見せた。恵まれていたのは本当だ。それでも奴隷であることには変わりない。粗相をすれば鞭打たれ、容赦なく蹴り飛ばされた。
 シャンピニは丈夫だからこれくらいたいしたことはないだろう、と嘲りながら鞭を振りかざす人物は決まっていた。その家の次男である。常に優秀な長男と比較されて鬱憤が溜まっていたのだろう。その解消先として標的になるのは、たいてい幼い兄妹だった。

「それでも、軽々しく話して聞かせる過去ではないのだな」
「いえ、子供らしい楽しみもありました。ただ、団長と私の暮らしはかけ離れていたでしょうから、共感も得にくいでしょう」
「そうだろうか」

 一方的な暴力と抑制された生活。確かにゲルダとマクシミリアンは似ているのかもしれない。
 けれど、ゲルダには当たり前に愛情を注いでくれる両親が傍にいた。庇い合える兄妹がいた。暴力に傷つき血を流しても、甘えられる存在がいたのだ。
 しかし、マクシミリアンは違う。
 孤独の中で暴力に耐え抜くなど、並大抵の事ではない。
 親から引き離され、酷い虐待を受け絶望の中で命を終える、ゲルダはそんな仲間を何人も見てきた。

「団長、確かに私の子供時代は自由だったとは言えません。鞭打たれたし、暴力でねじ伏せられることもあった。けれど、私は生きてここにいる。念願の騎士にもなれました。自分で選択した未来を進んでいる自分を誇りに思っています」
「過去はもう、お前を苦しませる事はないのか」
「人生には限りがあります。私は昔を振り返ることを止めたのです。勿体ないので」
「やはり、俺とお前は違う」

 マクシミリアンはついと顔を逸らし、膝を抱える。突然の拒絶にゲルダは慌てた。
 しまった。そんなつもりはなかったのだが、説教臭く聞こえたのだろうか。
 身の程知らずが生意気だと思われたのか?

「も、もちろん!私は奴隷上がりのシャンピニで、騎士とはいえ今は研修生です。高貴な身分の上、文武両道であられる騎士団長とは違います!でも、同じ人間です!」
「違う」
「肌の色も目の色も違うけど、同じく息を吸い、肌の下には血潮が流れています」
「違う。お前には……」

 ゲルダはマクシミリアンの腕を掴み、己の胸に押し当てた。

「なっ、何をする……!」
「心の臓が、鼓動を刻んでいるでしょう?同じです!」

 マクシミリアンは僅かにたじろぐが、やがて、美しい眉をひそめて目を逸らす。

「お前……、救護教育は受講したのか?」
「は?」
「接触による鼓動、脈拍の確認には心臓は不向きだ。首か手首の内側と学ばなかったのか?騎士試験の必修科目だぞ?」

 ゲルダは慌ててマクシミリアンの手を胸から外し、顔を赤らめた。
 ……しまった、またやらかしてしまった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...