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ポッコチーヌ様のお世話係

ポッコチーヌ様とお話しました①

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 ポッコチーヌは思いの外饒舌だった。

『マックスはガルシア家では問題児だったの』
「問題児?団長が?」
『美しさに対しての感覚がズレてたみたい』
「美しさを感じる基準がガルシア家の望むものでは無かったということですか?」
『そう、小さな頃からその傾向が見られたの。だから、それは厳しく矯正されてきたんだよ』

 ポッコチーヌはマクシミリアンの境遇を語る。マクシミリアンは己の股間に主導権を渡し、じっと動かない。

『コオロギを捕まえたり、犬の糞を枝で突いたり、水溜まりで転げ回ったり、紙を破って口に含んでみたり……』

 え?それって子供にとっては普通の行動じゃない?

『鼻くそをほじって食べてみたり……』

 う、うん、まあ、あるある。

『その度に叱られて折檻されたの』
「そんなことで?!」

 ポッコチーヌは頷く。正確に言えば、マクシミリアンが陰茎を掴んでゆっくり上下に動かしているのだが。
 その後、ポッコチーヌより聞かされた話は、貴族子息とは思えない辛いものだった。

 幼いマクシミリアンは、父の手により躾という名の折檻を受け続ける。身体と顔が資本とも言えるため、傷が生じるような方法は用いられなかった。彼の父がとったのは、卑劣な手段である。
 マクシミリアン付きの侍女や教育係をマクシミリアンの見ている前で鞭打ち、拷問する。それだけでは済まさず、首を掴んで桶に溜めた水へ顔を沈めた後、暗く狭い地下室に放り込む。泣いて壁を抉り爪を剥がせば、身体に傷を付けたことを更に責められた。
 それは、マクシミリアンが十三になり、全寮制の王立学園へ入学するまで続けられたのだという。

『そうやって育てられたマックスは、お父上が望む通り、ガルシア家跡取りとして遜色ない審美眼を持つ貴公子になったってわけ。表向きはね』
「他の家族は?母上や姉上は庇ってくれなかったのですか?」

 ゲルダはポッコチーヌに詰め寄る。ポッコチーヌは少し萎びた身体をプルプルさせて、左右に揺れた。

『両親は訳あって離縁したの。お母様はまだマックスが小さなうちに家を出てしまった。いずれ王妃となるお姉様はマックスとは違って、紛うことなきガルシア家の資質を持った人だったから……』

 ゲルダは息を吐き、握って膝に置かれていた手を開く。ポッコチーヌの話に真剣に耳を傾ける内に、床に座り込んでしまっていた。足がじんじんと痺れている。そろりと足を伸ばすゲルダに、ポッコチーヌは言う。

『地下室に閉じ込められた時、僕を握るのがマックスの癖になったの。そうすると、ちょっぴり安心出来たみたい』

 母もなく、父と同じ価値観を持つ姉と、とばっちりを恐れる使用人達。
 そんなピリピリとした孤独な環境で子供時代を過ごしたのなら、自らの陰茎を擬人化してしまうのも仕方がないのかもしれない。

「マクシミリアン様はとても想像力が豊かな方なのですね。それは素晴らしい才能だと思います」
『そ……ケホッ、ゲボッゲホホッ』

 マクシミリアンは激しく咳き込んだ。ゲルダは痺れた足でよろめきながらも立ち上がると、その裸の背中を摩る。無理をしてポッコチーヌの声を作ったせいで、喉に負荷がかかってしまったのだろう。

「団長、今お水をご用意します。……ポッコチーヌ様もたくさんお話してお疲れでしょう。もうお休み下さい」

 そう言いながらつい、手を伸ばして亀頭を撫でてしまった。
 途端に我へと返り、固まる。労りの気持ちからとはいえ、軽々しく触るものではなかった。マクシミリアンがあまりに自然になりきっているものだから、ポッコチーヌが実在するものと思い込んでしまった。
 そうだ、これはマクシミリアンの陰茎だった。
 
 ゲルダは汗を滲ませながら、そっとマクシミリアンを窺う。
 すると、彼はじっとエメラルドの眼を開きゲルダを見つめていた。
 息を呑むゲルダに、彼は口の端を僅かに上げて見せる。
 その直後、苦しげな咳の合間にポッコチーヌの声が聞こえてきた。

『またお話しようね、ゲルダ』

 ゲルダはマクシミリアンから視線を外せぬまま、ただウンウンと頷くのだった。
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