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ポッコチーヌ様のお世話係

マクシミリアンの苦悩③

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「……もう良い。もうしないから、退け」

 ゲルダはそのままの体勢で首を捻る。マクシミリアンはぼんやりと天井を仰いでいた。両の手は後方で上半身を支えている。

「本当にもうポッコチーヌ様を虐めませんか?」
「ああ。……フッ、おかしな奴だな。他人の男根を身を呈して護るなど。しかも、まるで小動物のように扱う」

 ゲルダはそろそろと身体を起こし、腰に手を当ててマクシミリアンを見下ろした。

「普段から名前をお呼びになり、愛でておられるのは団長でしょう。私を変人のように言うのは止めてください」
「生意気な奴だ」

 ゲルダは先程床に投げ捨てた毛布を拾いあげると、マクシミリアンの身体に掛ける。

「少しお休みになれば如何ですか?聞けば、剣を握られたのは久方ぶりだとか。お疲れになったのでしょう」
「あの程度で疲れていては、騎士など務まらない」
「体調管理だって騎士の義務ですよ」

 ゲルダはベッドから離れ、扉の前で姿勢を正す。

「お休みになられるまで、ここで見ております」

 マクシミリアンは毛布で包まれた膝に顔を埋めた。

「……た」
「……は?何ですか?」

 くぐもった声で発せられた言葉は上手く聞き取れず、ゲルダはマクシミリアンに耳を向けた。

「色々、失礼なことを言って申し訳なかった」

 ゲルダは驚く。初めて見る、マクシミリアンの殊勝な態度だった。

「お、お気遣いなく、私は気にしておりません」
「侮蔑するような言葉と態度を許せ」
「慣れております。今更傷付きなど致しませんから!」

 マクシミリアンは顔を上げ、ゲルダに視線を向けた。
 青ざめた頬をサラサラのブロンドが覆う。

「あのような言葉に慣れてはならん。シャンピニは等しくこの国の民となった。……いや、寧ろ敬意を払うべき尊い民族だ。祖国を奪い、あまつさえ迫害を行ってきた今までの事を我らが謝罪すべきだ」

 ゲルダは言葉を失い。マクシミリアンを凝視した。

「ど、どうされたのですか?団長」
「奴隷など恥ずべき制度だ……醜い」

 マクシミリアンは胸を押さえ、ハアハアと浅い呼吸をし始めた。ゲルダは一瞬躊躇するも、駆け寄った。

「失礼致します」

 裸の白い背中に手を添え、そっと擦る。マクシミリアンはゲルダの行為を咎めず、身体を預けた。

「お前は穢れてなどいないのだ、よほど、俺の方が、汚い」
「団長、落ち着いて下さい。ご自分の事をそんな風に言わないで下さい。天使とみまごうほどの美貌をお持ちでありますのに、凡人の反感を買いますよ」
「俺の目は曇っている、歪んでいる。本当は『美』が何であるかを知らないのだ。皆が誉めそやすので、美しいと認識しているだけだ」

 苦しげに、しかし、吐き出される告白は止まらない。ゲルダは戸惑いながらも耳を傾ける。

「美醜の判断が出来ぬのだ。そのような者にガルシア家の当主など務まる訳が無い。俺には次期当主を名乗る資格などないのだ!」

 マクシミリアンはきつく目を瞑り、唇を震わせる。
 ゲルダはかける言葉も見つからず、ただ、懸命にその冷えた身体をさすって温めようとしていた。
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