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ポッコチーヌ様のお世話係

手合わせをいたしましょう②

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地面を蹴り、走りながら剣を振る。下段から斜め上に放った剣を眩しく光る刃が受け止めた。
 ガチッと金属音が弾け、少しの間の後に下方へなぎ払われる。
 ゲルダは体勢を立て直し、腰を落としてマクシミリアンの腰を狙うが、縦に構えた剣で阻まれた。
 そのまま剣越しに顔を突き合わせ、睨み合う。

「なるほど、力は有るようだ」

 まるで少女と見間違うばかりの可憐な顔に不似合いな表情が浮かぶ。
 片方の口元を僅かに上げ、優越に満ちた視線で見下ろすマクシミリアンに、ゲルダの闘争心が静かに燃え上がる。

 ゲルダは剣を引くと、今度は膝を突こうと突き出した。
 マクシミリアンはそれを下方から回した剣身でいなす。
 二つの大剣が絡み合い、お互いの胸の前で交わった。
 ゲルダは目前にある美貌を睨みながら、渾身の力で押す。重なった刃がギチギチと軋み、踏みしめた足元の砂が鳴る。
 そうして、ゲルダは、グリップから伝わるマクシミリアンの熱を味わった。
 
 こうやって剣を交わす方が余程互いに分かり合えると思う。
 言葉より態度より、赤裸々で饒舌だ。
 
 一歩踏み込んだゲルダの力を後方へ流し、マクシミリアンは体勢を崩したゲルダの背中を柄頭で打った。
 振り下ろされる剣の気配を察知し、ゲルダは身体を捻り受け止める。
 刃先に手をやり、両手で剣を支えた。
 十字に重なる剣の向こうに、煌めくブロンドの髪に包まれた白い顔が見える。
 エメラルドの瞳に燃える炎を認め、ゲルダは微笑んだ。

「貴様、何が可笑しい」

 実のところ、問われた声に返す余裕など無かった。ゲルダとそう変わらぬ細身の身体なのに、マクシミリアンの力は強い。そこらの男には負けぬと自負しているゲルダだが完全に押されていた。
 土の上に着いた膝が擦れて熱い。腕は小刻みに震えている。
 
 練習場はシンと静まり返り、乾いた砂埃だけが風に煽られ忙しく舞っていた。

「負けを認めろ」

 そうはいかない。諦めが悪いところも自分の特技なのだ。例え泥臭い戦い方をしてでも勝つ。その拘りを捨てるつもりは無いし寧ろ推奨したい。戦場での妥協は即、命に関わるのだから。
 ゲルダは手を弛め剣を放り投げると、前のめるマクシミリアンに突進し、その腰にしがみついた。
 おお……と周囲から驚愕の声が上がる。

「貴様、小癪な真似を……!離せ!……触るなと言っただろう!」

 マクシミリアンはゲルダの肩を掴んで引き剥がそうとするが、ゲルダは必死でしがみつき、鳩尾に頭をつけて押し続けた。

「離せっ……!」

 ワンオクターブ高い声で叫んだマクシミリアンは、ゲルダの髪を掴み、腹を膝で蹴り上げた。苦痛に思わず手を緩めたゲルダを引き剥がし、土の上に放り投げる。
 倒れ込んだゲルダは砂埃に咳き込みながら起き上がろうと肘を着き、そして、霞む目が地面に落ちる影を見た。

「そこまで!! 」

 砂埃が舞う演習場にニコライの声が響く。それから暫く遅れて、騎士たちの拍手と歓声がワッと押し寄せた。
 ゲルダは顔を捻り、自分の上に剣を振り上げる男を見る。
 そして、顔面蒼白で唇を戦慄かせる美人のその瞳の中に、ある感情を見つけてしまった。
 
  それは、勝者にそぐわぬものだった。
 
 ゲルダは掛けるべき言葉を無くし、ただ唖然とマクシミリアンを見上げる。
 やがて、ニコライが姿を現しそっと名を呼ぶと、マクシミリアンは漸く剣を下ろした。疲れきったように片手で目を覆う男の肩を抱き、ニコライはこの場から連れ出すべく誘導する。
 そして、去り際に、ゲルダへ向けて申し訳なさそうに片目を瞑って見せた。
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