ポッコチーヌ様のお世話係〜最強美形の騎士団長は露出狂でした～

ポッコチーヌ様のお世話係

研修生ゲルダ・シュモルケ②

　しかし、窓辺に顔を向けるその人は、ゲルダの声など全く聞こえていないようだった。ゲルダは戸惑いつつも、その美貌に見惚れる。
　マクシミリアン・ガルシアは噂に違わぬ美人であった。顎で切りそろえられた真っ直ぐな金髪の向こうに見える繊細な高い鼻と長い睫毛、薄桃の薄い唇。まるで少女の如き可憐さだ。
　
　しかし、いつまでもここに留まっている訳にもいかない。かと言って、勝手に横をすり抜けるのも不敬に当たる。
　ゲルダは迷った挙句、彼の人へ近付き、頬を貼り付けんばかりに窓へと顔を寄せ、今一度声を掛けた。

「マクシミリアン団長、お初にお目にかかります！私、研修生のゲルダ・シュモルケと申します！！」
「……」
「 ゲ、ル、ダ・シュ、モ、ル、ケと申します！」
「……そうか、励みたまえ」
「……はっ」

　ゲルダは一礼するとその場を離れた。止めていた息をはぁ、と吐き、少しばかり泣きそうになる。
　マクシミリアンは僅かもゲルダに視線を向けなかった。
　たかが研修生風情、覚える必要などないとみなされたのだろう。
　ゲルダは荷物の入った箱をギュッと抱きしめた。
　そもそもゲルダには、マクシミリアンを探るつもりなどなかった。コソコソと人の弱みを探るなどという卑劣な行為は主義に反する。いくら敵対していたとしても、同じ王国を護る騎士団の仲間ではないか。三団長には、しれっと「 何も掴めませんでした」と報告するつもりでいたのだ。
　もし、その事で役立たずの烙印を押され三騎士団への配属が叶わなかったとしても、白騎士団には残れるかもしれない、という微かな望みを抱いていたのだが……

「あれじゃあ、無理そう」

　騎士団長と研修生が接する機会など早々ある筈もなく、興味を持たれなければ良い評価も貰えない。
　快挙だ、良くやった、と送り出してくれたかつての職場の仲間を思い出し、ゲルダは申し訳なくなる。故郷に錦を飾るぞと意気込んでいた三ヶ月前の自分が不憫だ。
　ここで生き残るためには、やはりマクシミリアン・ガルシアの弱みを探るしか道はないらしい。
　ゲルダは唇を噛みつつ、渋々決意した。