シンデレラ逃亡劇

すなぎ もりこ

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「まあ、今となれば少し感謝もしているけどね。変態に見染められたことがきっかけで、姉さんが奮起してくれたんだから」
 そう、エマを失うという事実に耐えられなくなった私は、エマの寝室である屋根裏部屋に忍び込んだ。……つまり、夜這いをしかけたのである。
 それからは人目を忍んで逢い引きをした。この湖も数ある隠れ場所のひとつである。ちょうど2日前も夜中にそっと抜け出し、舟の上で愛を交わした。
「月明かりに照らされる姉さんの姿がいやらしくて素晴らしかった。可愛い喘ぎ声が反響してさ。股間が治まらなくて参ったよ。あの夜は何回ヤッたんだっけ?3回?」
「……忘れた」
 そして、愛と欲に溺れた私たちは、ある計画を練り、実行を決意する。
 それが、今回の『シンデレラ逃亡劇』だ。
「でも大丈夫かしら。お母様たち、まさか処刑されたりしないわよね」
「投獄される程度だよ。罪人には王子が直々に拷問を与えるそうだけどね。ブタ姉にはちょうどいいダイエットになるんじゃないの?痩せればそこそこなんだし、それこそ王子の愛人に召し上げられるなんてことも夢じゃない。拷問は一生続くけどね!」
 エマは落ちていた小枝を拾うとブンブンと振り回した。
「知ってる?王子はこれと決めた生贄に、硝子の靴を履かせるそうだよ。逃げようとすれば硝子が割れて足に突き刺さる。鎖に繋ぐより残酷だよね。まあ、ブタ姉は履いた時点で靴が粉々に砕けそうだけどね!」
 私はその場面を想像し身震いをする。置いてきたはずの罪悪感が、むくりと顔を出した。
 どうしようもない母娘だが、復讐したいと願ったわけではない。
 エマもそうだ。エマはきっと、あの二人に対してなんの情も抱いていない。散々蔑まれてこき使われていたというのに、憎しみさえ持ち合わせていない。
 ただ煩くて邪魔なだけ。
 そう言っていた。
「まあ、ババアは懲りなさそうだけどさ。アレは死ぬまで治らない病だよ。生きてたって周りに迷惑をかけるだけなんだから、一生外に出さず閉じ込めといた方が世のため人のためだよ」
「……じゃあ、私たちは?捕まったらどうなる?」
 不安に駆られた私の顔を覗き込み、エマは微笑む。そして、ぎゅっと抱き寄せた。
「姉さん……アナスタシアは僕が守るよ。それにきっと神様のご加護もある。僕たちは揃って善良だし、深い愛の下で行動しているんだからね」
 エマは聳え立つ山に視線を向ける。
「国境なんて簡単に越えられる。隣国へ渡れば誰も追って来られやしない」
 エマの母親は隣国の出身であるらしい。計画に先立って、エマは母親の実家に保護を求める手紙を送った。国境近くまで迎えが来る手筈も整っているという。
「隣国には大陸一の図書館がある。世界中から集めた書物を閲覧することができるそうだよ」
「本当?!」
 興奮して見上げる私に、エマは頷く。
「楽しみになってきた?」
「ええ!私、頑張って山を登るわ!」
「さほどでもないよ。坂道程度だ。カーボでも行ける。そろそろ森へ入ろうか。カーボに乗って進もう。アナスタシアは前に乗ってね」
 先に馬に跨ったエマが差し伸べる。その手を取れば、軽々と馬上に引き上げられた。エマは手綱を持たない方の手で、私の腹を妖しく撫でる。ぎょっとして背後を振り仰げば、顎を掴まれて深く唇を合わせられた。
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