上 下
35 / 35

【最終話】運命のしめ縄

しおりを挟む
「まあ、しめ縄クラスだよね」

浅緋は苦笑いをした。

「いくら強固な縁だといっても綱引きのロープ程度だと思ってよ。君たちのは明らかに異常。元々太い上に田出呂神社の祭神様の加護で強化されてゴンゴンに捻れ合わされて、最早紐の体をしてない。誰にも切れないよ」
「…へぇ」

モカはそれ以上言葉が浮かばなかった。
蒼士も、折り畳みハサミどころかナタでも絶対切れない、と断言していたっけ。

宮司さんはいそいそと神前結婚式のパンフレットを差し出し、奥様はその隣でニコニコ笑っている。

「モカちゃんの白無垢姿、可愛らしいでしょうねぇ。もちろんお安くするわよ。お写真インスタに投稿して良い?」
「いえ、あの、まだそんな予定は…」
「うちのご祭神も楽しみにしてるから!なるべく早く頼むよ」

宮司さんは豪快に笑った。

モカは蒼士と並んで拝殿へと向かう。
着なれない千早と華簪を整え、蒼士を見上げて訊ねる。

「ねぇ、変じゃない?」
「似合ってるよ。…思った通り」
「思った通り?」
「出水さんがその格好で巫女舞踊ったろう?あれを見て思ったんだよな、モカも似合うだろうなって」

モカは呆けた。

「ずっとモカとすり替えて見てた」

てっきり花枝ちゃんに見惚れていたのかと思いきや、まさか、そんな妄想をしていたとは。

「巫女舞、初披露だな」
「緊張するよ~」
「あれだけ練習したんだから大丈夫だ。俺も側にいるし」

蒼士は笏を左手に持ち変えて、モカの頭をポンポンと叩く。

「でも、まさか、花枝ちゃんの結婚式で舞うことになると思わなかったよ」
「来年には旦那さんの海外勤務に同行して渡米するらしいな」

そう、なんと今日は花枝ちゃんの神前結婚式なのだ。
なんでも巫女舞を踊る姿に一目惚れをした旦那様が花枝ちゃんに猛アプローチをし、見事射止めたらしい。
あの時、参拝者の付き添いであの場にいたらしいが、全く気付かなかった。
しかも、花枝ちゃんが蒼士の話題をやたらとモカにふってきていたのには、意外な理由があった。
明らかに両想いなのにすれ違って見えるモカと蒼士の関係にジレジレし、なんとか結びつけようとけしかけていたというのだ。
蒼士とお付き合いをすることになったことを報告すると、花枝ちゃんは大袈裟なくらい喜んでくれた。
本当に思い込みというのは恐ろしい。
ごめん、花枝ちゃん…。

「まあ、良いんじゃねぇ?出水さんの縁もモカが引き寄せたんだぜ、多分」
「でも、今回は私を媒介してないよね?」
「そりゃあ、側にしめ縄で結ばれた俺がいるんだから、つけ入る隙も無かったろ」
「なるほど」
「これからも誰も寄り付かせねぇからな」

蒼士はモカの手を握り、見下ろす。
モカはその手をギュッと握り返した。


人の縁は異なもの味なものと言うけれど、まこと、不思議で面白い。
時に絡まり、引っ張り合い、切りたくなったり、また繋いだり。

運命で結ばれた二人の縁は誰にも切れないかもしれないけれど、だからと言ってそれに甘えたくはない。
お互いの気持ちが離れれば、ほどけることもあるのだとモカは思う。

見えないからこそ、頼りないからこそ、真剣に向き合える。
皆、繋ぎ続けるために、心を注ぎ、心を伝える術を探り、学んでいくのだ。

「私はやるよ!しめ縄に防水コーティングして、さらにワイヤーでぐるぐる巻きにしてやる!」

縁結び娘の決意表明は青空に高らかに舞い上がる。
傍らの縁切り侍は、それを眩しげに見上げた。

その時、本殿から優しい風が吹きこんだ。
それは二人の周りをくるくると回り、田出呂苺山へと去っていった。
モカと蒼士は驚いて顔を見合せる。

「そういえば、田出呂神社の祭神様は天狗を使役してるって聞いたことあるな」
「ヤツデの団扇で扇がれたのかな」
「多分、モカの決意に祭神様が応えて祝福してくれたんだろ」
「そっか、へへ、嬉しいね」

二人は微笑み合うと、再び強く手を握り合うのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(31件)

りん
2022.02.23 りん

完結おめでとうございます🎊🎊

何回読んでも、どちらで読んでも。
大好きなお話‪⸜(*ˊᵕˋ* )⸝‬🍀*゜

ヤバい‼️ゼツダンも、読みたくなって来たよ💦

後で、ちょっといってくる!
蒼士君、モカちゃん✨

お幸せに"(∩>ω<∩)"

すなぎ もりこ
2022.02.23 すなぎ もりこ

ありがとうございます~
りんさん、いっぱい応援ありがとうございます!

ゼツダンは私も良く読みに行くんですよ。
自分の作品なんですけど元気が出るっていうか。
おむサムもそんな作品に仕上がったと思っています!( *ˊꇴˋ)エヘッ

解除
ori (kaori)
2022.02.23 ori (kaori)

完結おめでとうございます♡

しめ縄に防水してワイヤーでぐるぐる巻き(笑)
そんなことしなくても、蒼士くんが離してくれないから大丈夫だよ~♡

このふたりは、間違いなく末永くお幸せですね♡

浅緋さんスピンオフも楽しみにお待ちしております♡

すなぎ もりこ
2022.02.23 すなぎ もりこ

ありがとうございます(•ө•)♡
本当は住所氏名生年月日全て調べてストーカーしたいぐらいだった蒼士くん。
良く頑張ったものね。
絶対離さんでしょう!

浅緋っち、書き始めたよ~
ゼツダンコンビも登場だぞ!

解除
とまとさん
2022.02.23 とまとさん

完結おめでとうございます!
══╔══╦═══════╗
╔═╝▒█║▒▒▒▒▒▒█║
║▒▒▒▒█▒█╔╦╗▒█║
╚╦═▒▒█▒█╚╦╝▒█║
╔╝▒▒█═▒▒▒▒▒▒█║
║▒▒▒▒█║▒█║▒█╔╣
║▒█▒█╔╝▒█║▒█╚╣
╚═╗▒█║▒▒█║▒▒█║
══╚══╩═══╩═══╝
ムーンで靴下から最終話を続けて読むと
同じ日に話してるみたいに読めちゃうんだよね。
違和感を感じるというか
もう少し話の間を離してほしいです。

すなぎ もりこ
2022.02.23 すなぎ もりこ

ありがとうございます!
どちらでも読了光栄です!

なるほど~
ご指摘ありがとうございます( ⸝⸝⸝ᵕᴗᵕ⸝⸝⸝ )💦
ちょいと見直してきますね!

解除

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

甘々に

緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。 ハードでアブノーマルだと思います、。 子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。 苦手な方はブラウザバックを。 初投稿です。 小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。 また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。 ご覧頂きありがとうございます。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

昨日、課長に抱かれました

美凪ましろ
恋愛
金曜の夜。一人で寂しく残業をしていると、課長にお食事に誘われた! 会社では強面(でもイケメン)の課長。お寿司屋で会話が弾んでいたはずが。翌朝。気がつけば見知らぬ部屋のベッドのうえで――!? 『課長とのワンナイトラブ』がテーマ(しかしワンナイトでは済まない)。 どっきどきの告白やベッドシーンなどもあります。 性描写を含む話には*マークをつけています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。