この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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魔王と勇者の蜜月

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 回想から戻った僕は、膝の上に置いた掌に視線を落とす。
 そして、ポツリと呟いた。

「僕は、幸せな奴だったんだな」

 王都に戻った聖騎士団長は、腐敗した教団の内部にメスを入れ、率先して改革に取り組んでいるらしい。
 教皇はといえば、側近である大司教が捕らえられたことを知り、即座に寝込んでしまったそうだ。そうすることにより追及を逃れたのだろう。きっとこのまま命が尽きるまでベッドの上で過ごすつもりに違いない。
 別にそれでもいいと思う。あの老人は前例に従っただけ。教団の存続が正義と思い込み、神に仕える機会を失った可哀想な神父。大司教も然り。彼らは歴史の犠牲者ともいえるのだから。
 王宮も変化している。魔国との交渉は王太子が担当し、それと同時に周辺国との関係の改善にも着手した。人質同然に嫁いできた妃たちも希望があれば故郷に返すという。
 現王は近々に王位を退くと宣言した。
 まもなく、ズーガリアに新しい国王が誕生する。
 新しい時代がやってくるのだ。

 ラフラ王女は王太子を助け、姉である王太子妃と共に奔走しているらしい。忙しいが有意義に過ごしていると、美しい筆跡でしたためられた手紙が届いた。
 その最後には“魔国の王と末永く仲睦まじくあれますように”と書き添えてあった。

 孤独に生きてきたつもりだったけれど、振り返ってみれば、僕の周りは賑やかで。
 僕は当たり前のように彼らの中にあり、時に恐れられながらも心配され、慈しまれていたのだ。

 身体中がむず痒くなるような不思議な感覚に襲われ、僕はギュッと目を瞑る。
 
 そうやってしばらく噛み締めたのち、僕は無性に外が見たくなり身体を起こした。
 ベッドを飛び降りて窓へと駆け寄る。
 白いカーテンを開ければ、漆黒の空に煌々と丸い月が浮かんでいた。
 今夜は満月だ。
 初めてセルジュに会ったあの夜の空にあったものと同じようにまばゆい光を放っている。
 そして、その周りには無数の星たちがあった。
 それぞれが精いっぱいに光り輝き、夜空を明るく照らしている。
 僕はその美しく健気な光景に見惚れた。
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