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叶えられた願い
②
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バーノンの叫びに、バサリという聞きなれた羽音が重なる。
そして、黒い影が、ついに舞い降りた。
降り立った者の姿を見て、バーノンが尻をついて後退る。
川の音と小鳥の囀りだけを残し、さきほどまでの喧騒が一瞬にして消えた。
河原の砂利を踏みしめて、黒いブーツが近づいてくる。
やがて、大きな影が僕の上に落ちた。
「オリバー」
大好きな声が震えている。
彼は僕の傍に膝をつき、頬に触れた。
「なにをやっている。どうしてあんな老いぼれにやられた。この俺様に勝ったほどの腕前のくせに」
「ご…めん。油断、した」
セルジュは僕の腹に手を翳す。
初めて会った時にそうしたように。
あの時、君は僕に「死ぬのか」と訊ねたね。
僕は本当に死んでもいいと思っていたんだ。
けど、今はそうは思わない。
これから君のために力を尽くすはずだった未来が惜しくてたまらない。
セルジュの表情が厳しくなる。
僕は自分の状態が思わしくないことを悟った。
「今すぐ治してやる」
震える掌が僕の額に当てられる。
「僕の、身体は、魔力が、効か……ない」
「俺は魔王だぞ。不可能はない」
「ぼく、は、ゆう、しゃだ」
端正な顔がくしゃりと歪む。
真紅の瞳が潤み、ぼたぼたと大きな水滴を落とした。
僕の頬に、鼻に、唇に、温かい雫が降り注ぐ。
絞り出すような声が、僕に訴える。
「嫌だ。俺をおいていくな、オリバー」
「ご、めん、セ、ルジュ」
「謝るな! 死ぬなんて許さないと言った!」
セルジュは取り乱し、美しい顔を子供のように崩した。いつも自信満々だった彼にそんな顔をさせてしまっていることを申し訳なく思う。
僕は重い手を伸ばし、彼の涙を拭う。
けれど、それは止まることはなく、とめどなく溢れて落ちた。
濡れることが嫌いだと言ったセルジュを、僕のせいでこんなにぐしょぐしょに濡らしてしまった。
けれど、その涙の感触さえ、僕にはもうわからない。
力なく落ちた腕は、もう僅かも動かせない。
そして、黒い影が、ついに舞い降りた。
降り立った者の姿を見て、バーノンが尻をついて後退る。
川の音と小鳥の囀りだけを残し、さきほどまでの喧騒が一瞬にして消えた。
河原の砂利を踏みしめて、黒いブーツが近づいてくる。
やがて、大きな影が僕の上に落ちた。
「オリバー」
大好きな声が震えている。
彼は僕の傍に膝をつき、頬に触れた。
「なにをやっている。どうしてあんな老いぼれにやられた。この俺様に勝ったほどの腕前のくせに」
「ご…めん。油断、した」
セルジュは僕の腹に手を翳す。
初めて会った時にそうしたように。
あの時、君は僕に「死ぬのか」と訊ねたね。
僕は本当に死んでもいいと思っていたんだ。
けど、今はそうは思わない。
これから君のために力を尽くすはずだった未来が惜しくてたまらない。
セルジュの表情が厳しくなる。
僕は自分の状態が思わしくないことを悟った。
「今すぐ治してやる」
震える掌が僕の額に当てられる。
「僕の、身体は、魔力が、効か……ない」
「俺は魔王だぞ。不可能はない」
「ぼく、は、ゆう、しゃだ」
端正な顔がくしゃりと歪む。
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絞り出すような声が、僕に訴える。
「嫌だ。俺をおいていくな、オリバー」
「ご、めん、セ、ルジュ」
「謝るな! 死ぬなんて許さないと言った!」
セルジュは取り乱し、美しい顔を子供のように崩した。いつも自信満々だった彼にそんな顔をさせてしまっていることを申し訳なく思う。
僕は重い手を伸ばし、彼の涙を拭う。
けれど、それは止まることはなく、とめどなく溢れて落ちた。
濡れることが嫌いだと言ったセルジュを、僕のせいでこんなにぐしょぐしょに濡らしてしまった。
けれど、その涙の感触さえ、僕にはもうわからない。
力なく落ちた腕は、もう僅かも動かせない。
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