この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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魔国との契約

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 僕は改めて目の前の魔族を見た。小さな顔に配置されたパーツは凛々しくも艶やかで、かっちりとしたコートに覆われたメリハリのあるボディと短いパンツから伸びた長い足は息を呑むほど美しい。そして、頭上にはセルジュと同じ芸術的な曲線を描くねじれ角。
 知と美を兼ね備えた完璧な女性だ。そう、正に、魔王であるセルジュの伴侶に相応しい。
 僕はきゅうとなる胸を誤魔化すように姿勢を正すと、手を差し出す。そして、無理やりに笑顔を作った。
「セルジュの婚約者殿ですね。お会いできて光栄です」
 アリシアはきょとんとすると、足元にいるセルジュに目をやった。そして、少し考え込む仕草をする。
「ああ、そういうこと」
 ひとり納得した風のアリシアは、差し出された僕の手を握りながらほほ笑んだ。
「それは随分と前に解消されているのです。今の私はセルジュ様にとって腹心の部下。それ以外の役割はございません」
 驚くべき事実を明かされぱちぱちと瞬きする僕を、彼女は面白そうに眺めている。
「オリバー様のことはセルジュ様より聞いております。随分と長い間、とても親しくさせていただいたようで何よりでございます。この人のお守りは骨が折れたでしょう?」
「は? いや、そんなことは。どちらかというと面倒を見てもらっていたのは僕の方かと」
「へえ? ……そうなんですか? 陛下」
 にやにや笑う彼女は、あろうことか上司である魔王の脇腹を爪先で小突く。
「止めろ」
「残念でしたね、負けちゃって。この後はどうするつもりですかぁ? また相談に乗りましょうかぁ?」
「五月蝿い!……おい、書いたぞ、オリバー」
 セルジュはサインした契約書を掲げると僕を呼び寄せた。
「おい、セルジュ、どういうことだ? 婚約を解消しただなんて聞いてな……」
「いいから、早く仕舞え」
 小声で訊ねる僕の声を遮り、僕の手に紙を押し付けた。
「署名だけじゃ本当に俺が書いたものか疑われるだろう。角を切ってやるから一緒に持っていけ」
「いっ、いいよ。角を折ったら君が無事じゃすまないだろう」
「いいんだよ。意味はないって言ったろ」
「また直ぐに生えますからね」
 アリシアがあっさりと暴露し、懐から鋸刃のついた短剣を取り出す。
「生えるのか!?」
「魔族は角から瘴気を取り入れて魔力に変換するのです。角が大きいほど操れる魔力の量が増える。角は魔力量のバロメーターというわけです。魔国の王は最も強い魔力を持つ者と定められている。つまり、セルジュ様の角は現時点で魔国一。そして、その強い魔力ゆえにすぐに再生できるんです」
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