この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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魔聖対戦

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 僕が最初に射った矢は外れた。
 それはセルジュをかすめもせず玉座に命中した。華麗に避けて見せたセルジュは、僕に向かって悠々と近づいてくる。腰に下げた剣を抜きもしない。
 まさか素手で戦うつもりなのかと訝しりながら、僕は次の矢を装着し、再び構えた。
 近距離戦に持ち込まれる前にセルジュの動きを封じなければ、戦いは不利になる。
 例え矢の効力が嘘っぱちだったとしても、セルジュには
 しかし、二本目は矢も外れ、三本目の矢はマントを貫くも痛手を負わせることは叶わなかった。
 マントを脱ぎ捨て、均整の取れた肉体を晒したセルジュは、不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる。僕は彼から距離を取るため、素早く移動した。
 矢は全部で五本。あと二本しか残されていない。僕は走りながら弦を引き、矢を放った。
 セルジュの顔の横をすり抜けた矢は、彼の黒髪を揺らすだけにとどまった。
 僕は舌打ちをし、すかさず最後の矢を掴んだが、少し考えて手を離す。そして、弓を投げ捨てた。
 僕の行動が意外だったのだろう。セルジュが僅かに首を傾げる。
 荒い呼吸を落ち着け、僕は素早く思考を巡らせる。
 どうやら、セルジュは魔聖対戦のセオリーすべてに従うつもりはないらしい。
 矢に傷つけられることがあれば動きを制限するだろうが、自ら当たりに行くつもりはないのだ。
 なぜなら、彼は魔力を封じているからだ。僕には魔力は効かないが、物質は操ることができる。つまり、セルジュの魔力にかかれば、矢の軌道を変えることなど容易いのだ。
 歴代の魔王たちは魔聖対戦がシナリオ通りに進むよう、そうとは気づかれぬよう魔力を操り、進んで矢に当たり、鈍らな剣を受け入れてきた。
 けれど、セルジュはそうするつもりがない。
 可能な限り、僕と真剣に戦いたいのだ。
 
 背中をゾクゾクと愉悦が駆け上がる。
 僕は興奮に身を震わせた。
 それこそ、僕が望んだもの。セルジュも同じ気持ちだったのだ。やはり僕らは通じ合っている!
 
 それであれば、今矢を放つのは無粋というものだ。これは最終手段として取っておけばいい。命中率の悪い弓をわざわざ使う必要はない。要は、矢じりでセルジュの身体に傷をつければよいのだから。
 僕は剣を抜き、構えた。
 セルジュはそれを見て、顎を上げにんまりと笑う。
 そして彼もまた腰に手を伸ばし、剣を抜いた。
 ――とてもシンプルな剣だ。
 柄頭に貴石がはめ込まれているようだが鍔もさほど張り出していない。剣身も大ぶりなものではなかった。
 ただ、わずかな光を受け真っすぐと輝く刃はその鋭利さを鮮明に伝えてくる。機能美とでもいうのだろうか。その剣はとても美しく、憎らしいほどセルジュに似合っていた。
 僕は剣に飾られていた黴臭い羽をむしり取る。そして、いくらかマシになったそれを掲げた。どうせこの剣を使う勇者は僕が最期だ。
 
 僕は腕を引き、床を蹴る。
 走り出した僕の目は、真っすぐと最愛の人に向けられていた。
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