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最期のピース
③
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その日は早めに夕飯を済ませ、湯を浴びてベッドに入った。
僕たちが宿泊しているのは村長の別宅で、普段は行商人の宿として使用しているらしい。そういうわけで、僕たち勇者一行にはそれぞれ個室が宛がわれていた。
僕はカーテンを開けて、窓越しに夜空を見上げていた。満月を明日に控えた月には生憎と雲がかかり、時々隙間から明るい光を放っている。水を張った水面に黒いインクを溶かしたような雲が、不穏に形を変えながら空を走っていた。
僕は、魔聖対戦の舞台裏について改めて考える。得た情報を繋ぎ合わせ、絡み合った糸を解くように思考を巡らせ、ついに、自分なりの真実にたどり着いた。
僕はぶるりと身体を震わせる。
ちっぽけなこの僕に、長きに渡り続いてきた理を、果たして打ち破ることができるのだろうか。人付き合いが苦手でお世辞の一つも言えない不器用な人間が、国を相手に交渉するなんて無謀にもほどがある。
老いてなお狡猾な教皇と、彼が築いてきた強固な組織を崩すことなど可能なのだろうか。
国王がどんな決断を下すかも不安要素の一つだ。
魔聖対戦は教団によって取り仕切られ、王宮はその詳しい内情を知らされていない。政治的に利用することを引き換えに干渉しないという暗黙の了解がある。
しかし、国としての決定権を持つのは最高権力者である国王だ。
つまり、唯一の同志であるラフラ王女の健闘を頼るしか術がないのである。
僕は頭の上で両手を組み、大きく息を吐く。
だとしても、やるしかない。
僕は最大のスキャンダルを握っている。
それが、ズーガリアの将来をも脅かすものであることは確実なのだ。
僕は鞄を探り、目当てのものを一式取り出す。備え付けの机に腰掛け、最後の仕上げに取り掛かった。お世辞にも綺麗とは言えない文字が連なる紙に、ゆっくりと丁寧に文章を書き加えていく。完成したものを何度も読み返し、インクが乾くのを待って小さく折り畳んだ。
作業を終えた僕は、ベッドに入る。毛布を引き上げ、セルジュのことを考えた。
セルジュは今頃どうしているだろうか。
明日の戦闘に備えて、もう寝てしまったのだろうか。
いや、宵っ張りな彼のことだから、今頃は夜空を散策しているかもしれない。
そうだ。月がまんまるに近いほどセルジュの魔力は増幅する。月光浴をすることでそれが定着するのだと話していたから、きっと飛んでいるに違いない。
月光を嬉々として浴びながら、悠々と黒い翼をはためかせる姿を想像して、僕は微笑む。
そして、そっと目を閉じた。
僕たちが宿泊しているのは村長の別宅で、普段は行商人の宿として使用しているらしい。そういうわけで、僕たち勇者一行にはそれぞれ個室が宛がわれていた。
僕はカーテンを開けて、窓越しに夜空を見上げていた。満月を明日に控えた月には生憎と雲がかかり、時々隙間から明るい光を放っている。水を張った水面に黒いインクを溶かしたような雲が、不穏に形を変えながら空を走っていた。
僕は、魔聖対戦の舞台裏について改めて考える。得た情報を繋ぎ合わせ、絡み合った糸を解くように思考を巡らせ、ついに、自分なりの真実にたどり着いた。
僕はぶるりと身体を震わせる。
ちっぽけなこの僕に、長きに渡り続いてきた理を、果たして打ち破ることができるのだろうか。人付き合いが苦手でお世辞の一つも言えない不器用な人間が、国を相手に交渉するなんて無謀にもほどがある。
老いてなお狡猾な教皇と、彼が築いてきた強固な組織を崩すことなど可能なのだろうか。
国王がどんな決断を下すかも不安要素の一つだ。
魔聖対戦は教団によって取り仕切られ、王宮はその詳しい内情を知らされていない。政治的に利用することを引き換えに干渉しないという暗黙の了解がある。
しかし、国としての決定権を持つのは最高権力者である国王だ。
つまり、唯一の同志であるラフラ王女の健闘を頼るしか術がないのである。
僕は頭の上で両手を組み、大きく息を吐く。
だとしても、やるしかない。
僕は最大のスキャンダルを握っている。
それが、ズーガリアの将来をも脅かすものであることは確実なのだ。
僕は鞄を探り、目当てのものを一式取り出す。備え付けの机に腰掛け、最後の仕上げに取り掛かった。お世辞にも綺麗とは言えない文字が連なる紙に、ゆっくりと丁寧に文章を書き加えていく。完成したものを何度も読み返し、インクが乾くのを待って小さく折り畳んだ。
作業を終えた僕は、ベッドに入る。毛布を引き上げ、セルジュのことを考えた。
セルジュは今頃どうしているだろうか。
明日の戦闘に備えて、もう寝てしまったのだろうか。
いや、宵っ張りな彼のことだから、今頃は夜空を散策しているかもしれない。
そうだ。月がまんまるに近いほどセルジュの魔力は増幅する。月光浴をすることでそれが定着するのだと話していたから、きっと飛んでいるに違いない。
月光を嬉々として浴びながら、悠々と黒い翼をはためかせる姿を想像して、僕は微笑む。
そして、そっと目を閉じた。
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