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暫しのお別れ
③
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聖堂に背を向け、僕たちは再び並んで歩きだした。
「荷造りは始めているのか?」
「ええまあ、けどまだ早いですよ。下着なんかは直前でないと揃わないし」
「勇者一行は行く先々で人に囲まれる。少しは愛想良く振舞ってくれたまえ。その仏頂面では国民の士気も下がる」
「どうせ戦うのは僕だけじゃないですか」
「何のために遠回りをして魔国へ向かうと思う? 魔聖対戦は国の安寧を賭けた一大事だ。国民にその重大さを知らしめる必要がある」
それは、裏を返せば、魔聖対戦に対する国民の関心が薄れていることを示唆している。長きにより勇者によって免れてきた『魔』の侵食、『魔国』の侵略。もはやそれは当たり前のこととなり、『魔』に対する恐怖も危機感も、国民の中には残っていない。彼らにとっての魔聖対戦はいわば、百年に一度行われるお祭りだ。
魔王の存在はあまりに現実味がなく、勇者に選ばれるのは、くじに当たるようなもの。報酬への憧れはあっても、実際には、窮屈で面倒なお役目など背負いたくないというのが本音だろう。
しがみついているのは権力者だけだ。
魔聖対戦の舵取りを制した者が不動の地位を獲得する。勇者となるに相応しく御しやすい人材を獲得した者、その派閥に属する者だけが、この国を操作する力を手に入れることができる。
その構図を手放せないのだ。
「手ぐらいは振りますよ」
僕が素っ気なく答えると、騎士団長は大きなため息をついた。しかし、それ以上はなにも言わなかった。
旅立ちの時まであと十日を切った。
首都を出発した勇者一行は、国の主要都市をいくつか渡り歩いた後、魔国へ到着することになる。その期間は十日。
今夜は最後の半月。ただの友人としてセルジュと会える最期の日だ。
聖なる武器の使い勝手より旅の支度より、僕にとってはそっちの方が重要だった。
「荷造りは始めているのか?」
「ええまあ、けどまだ早いですよ。下着なんかは直前でないと揃わないし」
「勇者一行は行く先々で人に囲まれる。少しは愛想良く振舞ってくれたまえ。その仏頂面では国民の士気も下がる」
「どうせ戦うのは僕だけじゃないですか」
「何のために遠回りをして魔国へ向かうと思う? 魔聖対戦は国の安寧を賭けた一大事だ。国民にその重大さを知らしめる必要がある」
それは、裏を返せば、魔聖対戦に対する国民の関心が薄れていることを示唆している。長きにより勇者によって免れてきた『魔』の侵食、『魔国』の侵略。もはやそれは当たり前のこととなり、『魔』に対する恐怖も危機感も、国民の中には残っていない。彼らにとっての魔聖対戦はいわば、百年に一度行われるお祭りだ。
魔王の存在はあまりに現実味がなく、勇者に選ばれるのは、くじに当たるようなもの。報酬への憧れはあっても、実際には、窮屈で面倒なお役目など背負いたくないというのが本音だろう。
しがみついているのは権力者だけだ。
魔聖対戦の舵取りを制した者が不動の地位を獲得する。勇者となるに相応しく御しやすい人材を獲得した者、その派閥に属する者だけが、この国を操作する力を手に入れることができる。
その構図を手放せないのだ。
「手ぐらいは振りますよ」
僕が素っ気なく答えると、騎士団長は大きなため息をついた。しかし、それ以上はなにも言わなかった。
旅立ちの時まであと十日を切った。
首都を出発した勇者一行は、国の主要都市をいくつか渡り歩いた後、魔国へ到着することになる。その期間は十日。
今夜は最後の半月。ただの友人としてセルジュと会える最期の日だ。
聖なる武器の使い勝手より旅の支度より、僕にとってはそっちの方が重要だった。
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