この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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暫しのお別れ

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 司祭が二人、扉の前で出迎える。
 彼らは息を合わせたように左右の扉を同時に開いた。
 だだっ広く殺風景な聖堂の中央に磨かれた石の祭壇があり、白い布が掛けられている。
 天窓から差し込む光が交差し、そこに置かれたものを照らしていた。
 僕と騎士団長は聖堂の中を進み、白い布の上に置かれた弓矢と剣を見下ろす。
 聖弓は短弓だが、ごってりと金色の装飾が施されている。極めつけは弓柄の両端にある羽根の装飾だ。聖剣も然り、鍔に広がる対の羽、握りには蔦を巻き付けたような金の彫刻が取り付けられている。
「重そうだし、持ちにくそう」
 思わず飛び出したぼやきに、隣の騎士団長が素早く反応し、シッと口を鳴らした。
「レプリカにはこんな羽根はついていなかったじゃないですか」
「装飾を除いた部分は同じだと聞いている」
「あの羽、服にひっかかりそうだし、視界も妨げられますよ。本番で取っちゃだめですか」
「あの羽根飾りに魔を払う力が宿るそうだ」
「はあ、なるほど。矢羽もおんなじですもんね。でも、なんだか汚い……煮だしたような色だけど、なんて鳥のものなんだろう」
「……もとは国鳥である白鳩のものだ。毎回聖水に浸すそうだから変色したんだろう」
 聖水というより泥水に浸してるんじゃないかと思うほどどんよりした色だ。なんだか黴臭いし。
 騎士団長は小さくため息をつくと、とりあえず持ってみるか? と僕を促す。僕は首を振った。
「魔国までの道中で感触を掴めば大丈夫でしょう」
 本音を言えば、手に匂いがつきそうだから持ちたくない。
 これでセルジュと戦うのかと考えたら、気が滅入った。
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