この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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暫しのお別れ

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「ラフラ王女と頻繁に会っているようだな」
 隣に並んで歩く聖騎士団長が小声で訊ねた。
「ええ。まあ」
 僕は平静を装い素っ気なく答える。

 現在、僕たち二人は教会堂の最奥にある神殿へと向かっている。
 聖なる武器に初めてお目見えするためだ。
 とはいえ、いつもの如く僕の気持ちは冷めている。楽しみというよりは、ちゃんと使えるものであればいいなぐらいの気持ちだ。
 やる気なさげな僕に、騎士団長が探るような視線を寄越す。
「以前は気が乗らないように見えたが……」
「帰ったら直ぐに式を挙げると聞きました。ですから、今のうちにお互いの事を知っておいた方がいいと思ったんですよ。殿下の出身であるモルハナ国のことも僕はほとんど知らないので」
「殿下はこちらの国の作法で生活しておいでだ。帰国するご予定もない。モルハナのことを知る必要はないと思うが」
「そうは言っても殿下の故郷でしょう。育った土地の記憶はその人を象る一部です。それをまったく無視して共に生活するなんて不自然だと僕は思います」
 騎士団長は黙り込んだ。大理石の廊下に靴音だけが響く。
 僕は彼の心中を推測することはせず、ひたすら歩くことに集中した。
 
 僕の動向を疑うならそうすればいい。
 どうせ、誰にも僕の計画は予想できない。
 勇者として役目を全うする以外に、僕の得になることなどありはしないのだから。
 
 廊下の先に金の装飾がされた豪奢な扉が見えた。
 あの先の祭壇に、聖なる武器が用意されているらしい。
 それらを使用するのは本番に限られる。大戦直前に教皇が三日三晩祈りを捧げ神力を上げるというが、怪しいものだ。あのヨボヨボの老人が特別な力を持っているなどと思えないし、三日も聖堂に籠ったら命さえ危ういだろう。
「祈りの儀式とやらは教皇様おひとりで大丈夫なんでしょうか。あのお方は相当な高齢で最近では必ず誰かが付き添って歩いておいでですよね。ご不浄や食事はどうするんだろう。おしめを履かれるのかな」
「君が気にすることではない」
 騎士団長は苦い顔をしてピシャリと言い放った。
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