この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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深夜の訪問者

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 去っていく彼女らの姿を見つめながら、僕は大きく息を吐いた。
 ラフラ王女の口からもたらされた真実は、僕の胸に重くのしかかった。
 ――魔族は悪ではない。本質は人間とさほど変わらない。
 それは僕も気づいていたことだ。なにせ魔王であるセルジュがあんな風なのだから。『石の者』の彼女が先祖から聞いたという、かつて魔族は友好的だったという話もそれを裏付けていた。

 そうなれば当然、魔聖対戦も仕組まれたものである可能性が高い。

 これまでその可能性を考えなかったわけじゃない。けれど、僕は深堀することを己に禁じ、踊らされることを選択したのだ。
 国も教団のこともまったく信用していなかったが、それならそれで利用させてもらおうと思っていたのである。

 しかし、直接聞かされたとなれば話が違う。
 彼女の願いを叶える義理はないが、知ってしまった以上、何もしないわけにはいかないとも思う。

 僕の脳裏にラフラ王女の空色の瞳が映し出される。
 ――まるで純度の高い宝石のようだった。
 あの後も、彼女は懸命に魔族のことを僕に語って聞かせた。頬を紅潮させ、澄んだ瞳に真摯な光を宿らせて。
 僕はあまりの眩さに直視できず、目を逸らした。
 王女と僕の境遇は少し似通っている。
 彼女もまた、故郷や家族から引き離され、駒として使われる生き方を強いられているからだ。
 僕と大きく違うのは、僕が失ってしまった正義感を、彼女が持ち続けているという点だろう。
 魔族への印象を改善したとして、彼女に実質的な利益はない。そればかりか立場が危うくなるだけだ。
 けれど、彼女は黙っていられなかったのだ。ルーツを同じくする魔国が、忌まわしいものとされることを見過ごせなかった。

 僕は窓を見た。雨足はさらに強くなり、夜の雨に冷やされた硝子が白く曇っている。
  偶然にも、雨の日を選んでラフラ王女は僕を訪れた。月が隠れ魔王が飛べないこの夜に。
 正義など屑籠に捨ててしまおうとしていたハリボテの勇者の元へ。

 王太子の側室である姉の立場を思えば、王女が表立って動くことは難しい。おそらく、唯一魔族と接触できる僕に訴えるしか術がなかったのだ。
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