53 / 136
僕の望む“終わり”
⑨
しおりを挟む――ああ、楽しい。楽しいな。
僕は澄んだ夜の空気を胸いっぱい吸い込んだ。
僕はセルジュに会うまで、怒ることも笑うことも忘れていた。
お腹が痛くなるまで笑い転げたり、文句を言い合ったり、照れたり、焦がれたり。
失いかけていた感情が、セルジュによって蘇った。
僕はようやく生きることができたのだ。
彼こそ僕の生きる糧。命の源。
一方で、気づいてもいた。
僕のセルジュへの想いは甚だ身勝手なものだ。
なぜなら、セルジュの幸せをとりたてて望んでいるわけではないからだ。
我が身を犠牲にしても尽くすという気持ちはなく、自分勝手に執着しているだけだ。
セルジュの一番近くでセルジュの愛情を一身に受ける。その相手が僕じゃないのなら、失った方がマシだと思う。
だから、僕は決めた。
セルジュに僕が望む結末を押し付けることを。
それは、彼がこれまで注いでくれた好意を全部無にする行為なのかもしれない。
まさに、恩を仇で返すような。
ああ、僕の中身はあまりに奇怪だ。魔王の君よりずっと禍々しい。
実際のところセルジュにだって理解できないだろう。
だから、僕は嘘をつく。
だって、僕の本体はあまりに醜い。
僕の中の化け物を見たら、君は即座に僕を嫌いになるだろう。
今はまだ、君の親友でいたいんだ。
「なあ、セルジュ、たとえ敵同士でも僕は君に会えて良かったよ。あの夜、会いに来てくれてありがとう」
「改まってどうした。やめろよ、調子が狂う」
セルジュが僕の頭をくしゃくしゃと撫でまわす。爪の先が頭皮をかすめてむず痒い。
僕の企みを知り、セルジュは怒るだろうか。それとも悲しむだろうか。
けれど、それを確かめる術はない。
魂が抜けた屍はただの物質に成り下がる。
他でもない、セルジュがそう言ったのだから。
46
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
【完結】姉の彼氏がAV男優だった
白霧雪。
BL
二卵性双生児の鳴現と恵夢。何処へ行くにも何をするにも一緒だった双子だけれど、ある日、姉の鳴現が彼氏を連れてやってくる。暁と名乗った五つも年上の色男は「よろしくね」と柔らかく笑った。*2017/01/10本編完結*
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる