この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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僕の望む“終わり”

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 時は瞬く間に過ぎていく。
 先日は王自ら鍛錬を見学に訪れた。伴われたラフラ王女は、僕と聖騎士団長が激しく剣を打ち合う様子を見て、身を竦めていた。
 流れる汗もそのままに膝をつき低頭すれば、王に促されたラフラ王女のか細い声が落ちてくる。
「どうか、ご無事で帰還されますよう、お祈り申し上げております」
 すかさず王が、横柄に命じた。
「必ず悪しき国の王を討ち取れ。神の力を得てなお敗北したとなれば、お前は神の名を穢し我が国を破滅に追い込む重罪を負う。重々胸に刻みこめ」
 僕は無言のまま胸に手を当て、さらに深く頭を下げる。
 王は盛大に鼻を鳴らし、砂を蹴散らしながらお付きの一団と共にその場を去った。
 僕はゆっくり立ち上がると手ぬぐいで首を拭う。汗で濡れた肌にこびりついた砂で生成りの布はたちまち茶色く色を変えた。
 ざらついた感触が不快で僕は少し不機嫌になる。
 身体を拭くのを諦めてこのまま水を浴びようと足を踏み出した僕の肩を、背後から聖騎士団長が叩いた。
「ラフラ殿下は君の勝利祈願のために礼拝堂へお通いになるそうだ」
「……はあ、そうなんですか」
「殿下自ら王に申し出たのだとか。未来の夫となる君のことを心配していらっしゃるのだ。殿下を悲しませることのないよう力を尽くさねばならないな」
「無論です」
 僕は感情の籠らぬ声で答えた。
 あらゆる人があらゆる言葉で、僕を脅迫する。
 必ず魔王に勝て。
 命をかけてもやり遂げろ。
 お前には退路などないのだ。
 しかし、僕はわずかも追い詰められることがなかった。
 それぞれが己の立場を守りたいがために必死になっている様は滑稽で、笑える。
「必ずやり遂げますのでご心配なく。殿下にも祈願など必要ないとお伝えください」
 聖騎士団長は僕の肩を掴み、少し語気を強くした。
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