この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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魔聖対戦のこと③教皇

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 老人は白い髭の下の口をもぐもぐと動かすと、億劫そうに息を吐き、再び話し出した。
「魔王城に着いたら、扉の前で開錠の《詠唱その2》を唱えてください。扉が開きます。それから……廊下を真っすぐ進むのです。さすれば目前に対戦の場となる王座の間が現れます。マルベリー色の扉が目印です」
 老人は一気に話し終えると、胸を押さえてはあはあと息を整える。僕はテーブルの上の水差しを手に取り、白磁のカップに水を注いで差し出した。老人は震える手でそれを受け取り、髭を濡らしながら口に注ぐ。
「そこもまた詠唱で開くのですか?」
 喉を鳴らしながら老人は小さく首を振る。カップを戻してテーブルの上で手を組み合わせた。
「準備が整ったらノックすればよろしい」
 そこは手動なんですね……
「戦闘の段取りは聖騎士団長から聞いていますね」
 僕は頷く。うんざりするほど繰り返した戦いの手順を目の前の老人に話して聞かせた。随分耳が遠くなっているらしく、僕は大きな声でゆっくりと話さねばならなかった。
 
 勇者は扉を開け、名乗りを上げる。その後、神の加護を受けるための《詠唱その3》と口上を唱え、戦闘が開始される。
 まずは遠方から弓矢を射る。矢自体には魔王の息の根を止める威力はなく、とにかく身体の一部に傷をつけるだけでいい。そこから聖なる力が注ぎ込まれ、魔王の動きを徐々に制限していくのだという。
 魔王の動作が緩慢になり足を止めたら、剣で切りつける。
「魔王が倒れたら、短剣で角を切り落としてください。角を失った魔王は魔力を失い、魔国に充満する魔に蝕まれ、ほどなく消滅します」
 僕は膝の上に置かれた手をぎゅっと握りしめる。
 セルジュの最期など想像したくもなかった。
「切り落とした角は、こちらへ持ち帰ってください」
 魔王の角は神殿にて封印される。
この一連の手順を経て、魔の侵食を留めることがはじめて叶うという。
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