この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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魔聖対戦のこと②

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「我がバーゼリアは神の代理となるべく選ばれた国。神により聖なる強い力を授けられ、正義の下にそれを振るう事を許されている唯一の国である。人の負の感情を餌とし、悲しみと憎しみで世界を覆い尽くさんとする魔族との戦いは、世界の浄化のために課せられた我が国の使命である。我が国は必ずや悪を倒し、世界に調和を取り戻すであろう!」
 
 魔聖対戦まで一年と迫った夏の日。
 王都では、対戦の前年祭と神の生誕祭を絡めたという大々的な催しが行われていた。
 大聖堂を一日のみ開放し民の参拝を許すらしい。
 本来なら主役と言っていいはずの僕は、式典に呼ばれることもなく、講師不在のため講義もなく、暇を持て余していた。
 大聖堂の裏口の階段に腰掛けて、芝居がかった教皇のしわがれ声と割れんばかりの歓声をぼんやりと聞く。
 セルジュと戦う時が、とうとう一年後に迫っている。
 現在の僕は、魔王と戦う術をほぼ会得したらしい。剣と弓矢の講師も徐々にレベルアップし、現在は聖騎士団長が担当している。団長からは「技術的な方面に関してはもう教えることはない」と言われていた。
 戦いの際に唱えるという長い詠唱も暗記した。神父からの講義は随分前に修了し、現在受けているのは、スティール講師からの貴族教習のみだ。
 対戦では、代々引き継がれてきた魔を貫く聖剣と聖矢を使用するという。
 そんなものがあるのなら、魔王と戦うのは別に僕でなくても良い気もするが、今更難癖をつけるつもりはない。
 これからの一年は、ダミーの武器を使用しての反復練習だ。なんでも、魔王を倒すには手順を踏まねばならないらしい。本番が筋書き通りにいくのか甚だ疑問だが、何せ実際に魔王と戦ったという勇者はみんな墓の中なのだから確かめようがない。
 
 僕は、筋肉がつき硬くなった自分の腕を見下ろした。
 ここに来た当時、ひょろひょろで青白い顔した少年だった僕は、逞しい肉体をもつ青年へと姿を変えた。
 身長もすくすく伸びた。以前は木箱と塀を経由し、尚且つセルジュに引っ張ってもらわなければ辿りつけなかった屋根も、助走をつけて塀を蹴れば登れるようになった。
 あの夜、死によって使命から逃れることを望んだ僕だが、まだ生きてここにいる。
 それはひとえにセルジュの存在があったからこそだ。
 僕は、セルジュに会うために生きている。
 勇者の修行も、役目を他の人間に譲りたくないという一心で続けていた。
 セルジュを傷付けるのは嫌だ。
 けれど、僕じゃない誰かにセルジュを傷付けられるのは、もっと嫌だ。
 セルジュが僕を愛すことは永遠にないけれど、戦っている間、セルジュは僕のものだ。
 彼の視界と頭は僕で占められ、世界は二人だけになる。
 なんといっても、お互いのすべてを賭けて向き合う命の取り合いだ。恋情より激しく、劣情より荒々しいだろうセルジュから向けられる感情を想像し、僕は震えた。

 魔王であるセルジュと戦えるのは勇者のみ。
 僕以外は有り得ない。
 彼を深く愛する僕こそが相応しい。

 残酷な未来に、僕はいつしか甘美な興奮を感じるようになっていた。
 セルジュのようにその時を心待ちにするようになっていたのだ。
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