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『石の者』

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 『石の者』の管理は主に教団で行っているらしい。とすれば、性教育は教団からの申し出で、王宮は本来の目的を知らされていない可能性がある。
「この計画は教団によるものですね? 貴女を講師に差し向けたのも」
 彼女は俯きながらも首を縦に振った。くぐもった声で、そうだと答えた。
「教団は王宮に『石の者』を管理していることを隠している。私たちもきつく口止めされているわ」
「であれば、僕がスティール講師に話します。僕はラフラ王女以外と性交するつもりはないと。殿下を裏切る行為はしたくないと主張しましょう」
「……そんな上手くいくかしら」
「王女を尊重するのですから王宮側にすれば悪い気はしないでしょう。貴女も僕に突き飛ばされたとでも言って泣きついてください」
 彼女は顔を上げ、僕を不思議そうにみつめた。
「貴方には何の利益もないわよ。私と何回かヤる方がよほど楽じゃない。あと腐れなく女を抱けるんだし」
「僕はそれほど飢えていませんし、貴女のことが好きでもない。他に想い人のいる女性を抱くなんて真っ平です。今のままでも何の不自由も感じていませんし、余計なことを知って鍛錬に支障が出る方が怖い」
 きっぱりと告げる僕のゆるぎない態度を見て、彼女は納得したらしい。
「わかったわ。私も頑張って演技する。後で叱られても恨まないでよね」
「慣れているので平気です」
 彼女はベッドから腰を上げ、ローブを羽織りながらこちらへ向かって歩いてくる。僕は扉を開けるべくノブを握った。
 僕の側まで近づいた彼女は、僕の手を取りぎゅっと握りしめた。
 驚きはしたが、彼女からは先ほど感じた物騒な色気を感じない。黙ってされるがままになる僕に、彼女は囁く。
「私の体質はひいおばあちゃんから引き継いだものらしいのだけど、母から聞いたことがあるの。私のご先祖様は王様に仕えていた騎士だったんですって」
「そうなんですか?」
「魔力が効かない体質を買われて、魔族と王様との伝達役を務めたらしいわ」
 勇者の祖となる『石の者』がその頃に存在していたというなら、神が遣わしたという説に疑問が生じる。僕は内心動揺しながらも静かに話の続きを待った。
「その頃の魔族はとても人間に友好的だったそうよ。ご先祖様もよく魔国に足を運んでいたらしいわ。向こうの戦士と手合わせすることもあったんだって」
 彼女はそっと笑い、僕を見上げた。
「それが魔聖対戦の起源だといったら、貴方は信じるかしら」
 彼女は僕の手の甲に口付けた。
「勇者殿の幸運を祈っています。神のご加護がありますように」
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