この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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『石の者』

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 返す言葉が見つからず、僕は気まずげに視線を泳がせた。
 まさか、勇者選抜の裏にそんな事情があったとは知らなかった。そうであれば、僕はやはり幸運だったということになるのだろうか。
「自分が選んでこんな体質に生まれたわけじゃないのに。魔族が悪さをするなんてことも実際にはないじゃない? 百年に一度のお祭りのために犠牲にならなきゃいけないなんて馬鹿みたい」
 まったくその通りだと思うが、軽はずみに同意することは憚られた。彼女が明かした事情は、おそらく僕が知っていてはいけないことだ。
「魔聖対戦は、魔の気がこの国に侵食することを防ぐために必要な儀式なのだと教えられています。皆のために役立てるのなら、僕のひとりの人生を犠牲にするくらい安いものだと考えています」
 魔族が存在することを僕は知っているし、不思議な力も目の前で見ている。それが人の身体に悪い影響を与えるものかはわからないが、セルジュが飛び立った後に梟が森へ落下していくのを何度か見た事がある。少なくとも梟を気絶させるほどには強力なものなのだろう。魔力を増幅し続ける魔王を勇者が倒すことで平和を持続させる。その構図は、理屈が通ったものだ。
 『石の者』の厳しい運命を知ったとしても、僕の使命が覆ることはない。彼らのために出来ることはないのだ。
「魔国の侵略を食い止める役目を負っていることで、バーゼリアは周辺国からの畏怖も得ています。戦わずして従えているのだから、魔聖対戦の果たす役割は大きいと思います」
 僕の優等生めいた答えに、彼女は感心したように頷く。
「調教されているのね。羨ましい。私もそう思えたら良かったのだろうけど、生憎と国の平和より身の回りのことで精一杯よ。この任務のために恋人とだって別れてきたのよ。結婚の約束をしていたのに」
 顔を覆ってしまった彼女を見下ろしながら、僕は頭を巡らせる。
 彼女と性交せずにこのまま帰すにはどうしたらいいのだろう。
 できれば、彼女も彼女の大切な人とやらもひどい目に合わされることがないようにしたい。彼女を助ける義理はないが、突き放すのは寝覚めが悪い。
 僕は腕を組み、彼女の語った内容を思い返した。
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