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『石の者』
①
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どんよりとした雲が空を覆いつくす秋の日。僕は十八の誕生日を迎えた。
生まれてこの方誰にも祝ってもらったことのない僕にとっては、特別な意味など持たないただの数字。当たり前に続く日々の一頁に過ぎない。
それでも、セルジュと一緒にいられるのなら、重ねた年月を少しは愛おしく感じられる気がしていた。
面白みのない僕という本に鮮やかな挿絵を描いてくれたセルジュ。彼が僕の名を呼ぶたび、まるで物語の主人公になったかのように自惚れた。
しかし、生憎と今日は曇り空だ。黒々と重くのしかかる雲と湿った風は、明らかに雨を呼んでいる。
僕は湿っぽい気分で身支度を整え、部屋を出た。
先日から始まったマナー講習が、僕の憂鬱に拍車をかけていた。いずれ貴族になった時に困らぬようにとの王宮からの計らいらしいが、講師の男があからさまな差別主義でいけ好かない。
僕は重い足取りで廊下を進む。
セルジュに会えない日はやる気が失せる。何をするのも億劫だ。連日雨が続いた日には、頭も身体も鈍るし食欲も湧かない。
それでも、僕は勇者の修行を放棄しない。脇腹を負傷した以降は大きな怪我もなく風邪ひとつ患うこともなく、おかげさまで皆勤だ。
別に使命感があっての事じゃない。講師たちは僕のやる気に敏感だ。少しでも面倒なそぶりを見せれば、きつく咎める。勇者としての適性を厳しく採点し、不足があれば徹底的に補おうとする。各々が頭に描く完璧な勇者を僕に押し付けようとしていた。
つまり、休んだ後の面倒を思えば無理を押しても行く方がいい、それだけだった。
生まれてこの方誰にも祝ってもらったことのない僕にとっては、特別な意味など持たないただの数字。当たり前に続く日々の一頁に過ぎない。
それでも、セルジュと一緒にいられるのなら、重ねた年月を少しは愛おしく感じられる気がしていた。
面白みのない僕という本に鮮やかな挿絵を描いてくれたセルジュ。彼が僕の名を呼ぶたび、まるで物語の主人公になったかのように自惚れた。
しかし、生憎と今日は曇り空だ。黒々と重くのしかかる雲と湿った風は、明らかに雨を呼んでいる。
僕は湿っぽい気分で身支度を整え、部屋を出た。
先日から始まったマナー講習が、僕の憂鬱に拍車をかけていた。いずれ貴族になった時に困らぬようにとの王宮からの計らいらしいが、講師の男があからさまな差別主義でいけ好かない。
僕は重い足取りで廊下を進む。
セルジュに会えない日はやる気が失せる。何をするのも億劫だ。連日雨が続いた日には、頭も身体も鈍るし食欲も湧かない。
それでも、僕は勇者の修行を放棄しない。脇腹を負傷した以降は大きな怪我もなく風邪ひとつ患うこともなく、おかげさまで皆勤だ。
別に使命感があっての事じゃない。講師たちは僕のやる気に敏感だ。少しでも面倒なそぶりを見せれば、きつく咎める。勇者としての適性を厳しく採点し、不足があれば徹底的に補おうとする。各々が頭に描く完璧な勇者を僕に押し付けようとしていた。
つまり、休んだ後の面倒を思えば無理を押しても行く方がいい、それだけだった。
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