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誘惑

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「勇者様、貴方のお相手を務めているのは誰か、お聞きしてもよろしいですか?」
 僕はブーツの紐を緩める手を止めた。背後を振り仰げば、いつかのビッチな修道士が立っていた。
「何のことでしょうか」
 時間は夕暮れ時。教会堂にいる人々の殆どが夕餉前の礼拝に向かい閑散とする時間だ。
 しかし、修道士は急ぐ風でもなく、じっとりと僕を睨んでいる。
「貴方を見ていればわかる。教えてください。私の目をかいくぐって貴方に抱かれる幸運を得たのは誰です? 修道士じゃなければ神父? 神学生? まさか聖騎士ですか?」
「有り得ません」
「それとも、ラフラ殿下に手を出しちゃった? あんな面白みのない陰気な女」
「不敬ですよ」
 修道士は取り繕う気もなくしたのか、鼻を鳴らした後に顔を歪めて舌打ちをした。
「あんたのハジメテは俺がもらいたかったのに。唾をつけた獲物に逃げられるなんて初めてだよ」
「唾をつけられた覚えはありません。それに、僕は神の代理としてこの国のために身を捧げる予定の人間です。色欲にうつつを抜かすなど許されません」
「ご立派なことで。だけど、本心で言っているわけじゃないだろう? あんたから滲み出るそれ……発情してる男の匂いだ」
 無表情を装う僕を、修道士は薄ら笑いを浮かべて見下ろす。
「僕にはわかる。男の発するその匂いを辿って、これまで散々食ってきたんだから」
「貴方はなぜ神職を志したんですか? 進むべき道を間違っていると思いますが」
 修道士は渡り廊下の柱に凭れ、腕を組む。
「この上なく僕らしい選択さ。だってここには男しかいない。ヤリ放題だろ」
 修道士は緩くウェーブした栗色の髪を指に巻き付けながら語った。
「僕は男爵家の長男だったんだけどさ、男が好きだったの。かなり小さなうちからそれに気付いていたんだよね。だから、わざと無能なフリをして弟に跡を継がせるように仕向けた。神職を目指すって言っても親は止めなかった。すんなりさ」
 修道士はウフフと笑い、詰襟の鋲を外す。そのまま前をはだけ、肌を見せつけた。
「ほら、女みたいに白くて柔らかそうだろう? ここもこんなに綺麗な色」
 細い指先が薄い桃色の突起を摘まむ。
「この身体を無駄にするなんて有り得ない。そう思わない?」
「生憎と僕にはわかりかねます」
 僕は修道士から視線を離し、再びブーツの紐を解く。
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