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はじめての口付け

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 唇が重なった瞬間、僕は咄嗟に目を閉じ、無様にもビクリと身体を震わせた。
 やがて濡れた舌が口の中に侵入し、僕の縮こまった舌を探り当てる。
 それは生き物のようにクネクネと器用に動き回り、僕の舌を解き、絡まった。
 生暖かい唾液が流れ込み、自分のものと混ざり合っていく。
 思わず引いた身体をセルジュがぐいと引き寄せた。
 抱きしめられ、お互いの胸がピタリと合わさる。
 セルジュの体温と鼓動が伝わり、僕を追い詰めた。
 もう止めさせなければ……
 そう思うのに、思考がかすみ身体が上手く動かせない。
 舌の側面を舌先でなぞられ背筋がゾクゾクと痺れた。
 口内を搔き混ぜられ唾液がクチュクチュと鳴る。
 その音に反応し、僕の腰がズクリと鈍く疼く。
 
 僕はセルジュの胸を押し、渾身の力で引きはがした。
 荒い呼吸に身体を上下させながら、目の前の男を睨む。
「な…がい! 五、秒間だって……言っただろうが!」
 口の端から垂れた唾液を袖で拭う僕を、セルジュは無表情で見下ろしていた。
 やがて、同じく濡れた口元を舌で舐めとりながら、彼はにんまりと笑った。
「気に入った」
 魔王のごとき笑みだった。
 いや、彼はまさに魔王なのだ。
 僕はゾッとし、尻でずりずりと後退る。
「またやろうな、オリバー」
「一回だけだと言った!」
「今度は十秒な」
「人の話を聞け――!」
 俺は人じゃなくて魔族だからなーなどと揚げ足を取りながら、セルジュは背中の羽を広げた。
「念願かなって気分がいいぜ。今夜はぐっすり眠れそうだ」
 そして、あっさりと夜空に飛び立った。
 
 その夜、僕が悶々として眠れなかったのは言うまでもない。
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