16 / 136
恋心と欲望
①
しおりを挟む
僕が普段生活しているのは、国教であるカホル教会堂だ。大聖堂を中心に、神父や修道士が生活する修道院、神職を志す子供たちが学ぶ神学校、教皇や大司教が暮らす宮殿、聖騎士本部が回廊で結ばれている。切り立った崖の側にある広大な敷地に展開する宗教施設だ。僕の部屋は修道院の一角にある。
教会堂内は女人の立ち入りは禁止されている。つまり、男しかいない。
一生を神にささげると決めたはずの彼らだが、完全に己を律することは不可能であるらしい。こっそり隠れて逢引したり、修道士や神父が愛憎がらみで掴み合いの喧嘩をすることもあった。
弓矢の訓練の帰り、うっかり彼らの情事を盗み見てしまったことがある。
物置小屋の陰で、修道服を捲り上げられて後ろから突かれている男と目が合った。彼は焦ることなく、声を押し殺しながらも僕を見て笑ったように見えた。
僕は慌ててその場を立ち去った。
それから程なくして、その修道士に呼び止められた。
「ごきげんよう、勇者様」
修道士は僕より少し年上のように見えた。華奢な体格の、切れ長の垂れ目が印象的な男だった。
僕は無言で会釈し、その場を立ち去ろうとした。あの日見たことを誰かに話すつもりなどなかったし、なにより彼には近寄りたくなかったのだ。
しかし、彼は僕についてきた。
中庭に出て井戸ポンプを操作し、桶に水を貯める僕をじっと見ている。僕は居心地の悪さに身じろぎをした。舐めるような視線が気持ち悪い。
「行水をなさるのなら、お手伝いしましょうか」
いつの間にか背後に立った男が囁く。
僕は振り返らぬまま「お構いなく」と素っ気なく答えた。
「勇者様はお若いのに逞しいお身体をお持ちですね。訓練の賜物でしょうか」
男の指が背骨を辿る。
僕はゾッとして、桶を抱えてその場を立ち去ろうとした。しかし、修道士は僕の背中に張り付いた。
「勇者様は私の痴態をご覧になったでしょう? 二日前の夕方、訓練場近くの北側倉庫の裏で。後ろから犯される私を見た筈です。あの時目が合いましたね」
「知りません」
「私は以前から貴方のことを見ていました。禁欲的に訓練に勤しむ貴方はとても素敵でした。精悍な中に幼さが残る顔立ちも聖騎士に負けない立派な体格も。貴方に懸想している修道士は多いのですよ」
同性に恋情を抱くのは僕も同じであるし、否定する気はない。けれど、仮にも国教のお膝下で悪びれもせず、堂々と禁を犯している男が不快だった。
思い返せば、要領よく己の欲望を満たしている男に嫉妬していたのかもしれない。
教会堂内は女人の立ち入りは禁止されている。つまり、男しかいない。
一生を神にささげると決めたはずの彼らだが、完全に己を律することは不可能であるらしい。こっそり隠れて逢引したり、修道士や神父が愛憎がらみで掴み合いの喧嘩をすることもあった。
弓矢の訓練の帰り、うっかり彼らの情事を盗み見てしまったことがある。
物置小屋の陰で、修道服を捲り上げられて後ろから突かれている男と目が合った。彼は焦ることなく、声を押し殺しながらも僕を見て笑ったように見えた。
僕は慌ててその場を立ち去った。
それから程なくして、その修道士に呼び止められた。
「ごきげんよう、勇者様」
修道士は僕より少し年上のように見えた。華奢な体格の、切れ長の垂れ目が印象的な男だった。
僕は無言で会釈し、その場を立ち去ろうとした。あの日見たことを誰かに話すつもりなどなかったし、なにより彼には近寄りたくなかったのだ。
しかし、彼は僕についてきた。
中庭に出て井戸ポンプを操作し、桶に水を貯める僕をじっと見ている。僕は居心地の悪さに身じろぎをした。舐めるような視線が気持ち悪い。
「行水をなさるのなら、お手伝いしましょうか」
いつの間にか背後に立った男が囁く。
僕は振り返らぬまま「お構いなく」と素っ気なく答えた。
「勇者様はお若いのに逞しいお身体をお持ちですね。訓練の賜物でしょうか」
男の指が背骨を辿る。
僕はゾッとして、桶を抱えてその場を立ち去ろうとした。しかし、修道士は僕の背中に張り付いた。
「勇者様は私の痴態をご覧になったでしょう? 二日前の夕方、訓練場近くの北側倉庫の裏で。後ろから犯される私を見た筈です。あの時目が合いましたね」
「知りません」
「私は以前から貴方のことを見ていました。禁欲的に訓練に勤しむ貴方はとても素敵でした。精悍な中に幼さが残る顔立ちも聖騎士に負けない立派な体格も。貴方に懸想している修道士は多いのですよ」
同性に恋情を抱くのは僕も同じであるし、否定する気はない。けれど、仮にも国教のお膝下で悪びれもせず、堂々と禁を犯している男が不快だった。
思い返せば、要領よく己の欲望を満たしている男に嫉妬していたのかもしれない。
47
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる