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勇者の初恋
②
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「そういえば、国王と飯を食う会やらには行ってきたのか?」
セルジュに訊ねられ、僕は面倒くさそうに答えた。
「ああ、晩餐会ね。行ってきたよ。堅苦しくって食べた気がしなかった」
「なんだ勿体ない。普段ろくなものを食べさせてもらっていないんだから、しこたま食ってこいよ。ついでにおかずを一品増やして欲しいと直談判すりゃ良かったのに」
僕はあいまいに笑う。
晩餐会にはラフラ王女が出席していた。魔王討伐後、僕に献上されるらしい。光栄に思えと言わんばかりの態度の国王の隣で、王女は黙って俯いていた。
ラフラ王女は南の小国の出身だ。
腹違いの姉が王太子の側室であり、姉の侍女としてこの国へとやって来た。妃の身の回りの世話を長く務めてきたが、最近になり養女として迎え入れられたという。
国王は大国であることを傘に着て、武力で劣る周辺国から側室となるべく人間を差し出させる。そうやって集めた側室は十一人、王子の側室を合わせると十六にのぼるとか。
貧しい国の血を引くラフラ王女は王族では末席の扱いだ。庶民に宛てがうには最適とみなされたのだろう。
ラフラ王女に同情はするが、彼女を愛せる気がしない。
新たな枷を背負わされ、僕の憂鬱は増した。
分厚い肉は味などせず、中々飲み込めなかった。
僕が成長するごとに神父は報復を恐れてか大人しくなり、騎士もおべっかを使うようになった。それでも待遇が良くなったとは感じない。国王の言葉と裏腹に、僕はいつまでも勇者という名の庶民であり、周囲を取り巻く人々の瞳に宿る蔑みの色は健在だ。
「魔王討伐後は爵位をもらって、国の西端の領地を治めることになるんだって」
かたちばかりの報酬だ。過疎地へ追いやられるだけ。成り上がりの僕が加わるのを、他の貴族が面白く思わないことは明らかだ。その後の援助も望めないだろう。
「へえ、そりゃ故郷の家族も喜ぶだろ」
「母は一緒に来ないと思う」
田舎出の母親が王女様と気が合うとは思えない。何より身体の弱い兄は長距離の移動に耐えられない。
「なんだよ、嬉しくなさそうだな。お前の望みはいったいなんなんだ?」
セルジュの問いに僕は黙った。
――僕の望み。
それは決して叶わない。
口にも出せない妄想だ。
セルジュに訊ねられ、僕は面倒くさそうに答えた。
「ああ、晩餐会ね。行ってきたよ。堅苦しくって食べた気がしなかった」
「なんだ勿体ない。普段ろくなものを食べさせてもらっていないんだから、しこたま食ってこいよ。ついでにおかずを一品増やして欲しいと直談判すりゃ良かったのに」
僕はあいまいに笑う。
晩餐会にはラフラ王女が出席していた。魔王討伐後、僕に献上されるらしい。光栄に思えと言わんばかりの態度の国王の隣で、王女は黙って俯いていた。
ラフラ王女は南の小国の出身だ。
腹違いの姉が王太子の側室であり、姉の侍女としてこの国へとやって来た。妃の身の回りの世話を長く務めてきたが、最近になり養女として迎え入れられたという。
国王は大国であることを傘に着て、武力で劣る周辺国から側室となるべく人間を差し出させる。そうやって集めた側室は十一人、王子の側室を合わせると十六にのぼるとか。
貧しい国の血を引くラフラ王女は王族では末席の扱いだ。庶民に宛てがうには最適とみなされたのだろう。
ラフラ王女に同情はするが、彼女を愛せる気がしない。
新たな枷を背負わされ、僕の憂鬱は増した。
分厚い肉は味などせず、中々飲み込めなかった。
僕が成長するごとに神父は報復を恐れてか大人しくなり、騎士もおべっかを使うようになった。それでも待遇が良くなったとは感じない。国王の言葉と裏腹に、僕はいつまでも勇者という名の庶民であり、周囲を取り巻く人々の瞳に宿る蔑みの色は健在だ。
「魔王討伐後は爵位をもらって、国の西端の領地を治めることになるんだって」
かたちばかりの報酬だ。過疎地へ追いやられるだけ。成り上がりの僕が加わるのを、他の貴族が面白く思わないことは明らかだ。その後の援助も望めないだろう。
「へえ、そりゃ故郷の家族も喜ぶだろ」
「母は一緒に来ないと思う」
田舎出の母親が王女様と気が合うとは思えない。何より身体の弱い兄は長距離の移動に耐えられない。
「なんだよ、嬉しくなさそうだな。お前の望みはいったいなんなんだ?」
セルジュの問いに僕は黙った。
――僕の望み。
それは決して叶わない。
口にも出せない妄想だ。
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