この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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出会い

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 そこにいたのは、真っ赤な瞳をした子供だった。
 濡れ羽色の巻き毛に覆われた浅黒い肌、尖った耳、頭上に聳える二つの捩じり角。
 彼が魔物であることは間違いがない。講義で教わった魔族の容貌と一致していた。
 けれど、ツンと上を向いた鼻とふっくらした頬はあどけなく、柔らかそうなオレンジの唇を突き出している様からは禍々しさなどみじんも感じない。まん丸に目を見開かれた大きな赤い目は、好奇心でキラキラと光っていた。
「勇者のくせに弱っちいな。そんなんで俺と戦えるのか?」
 あまりにさらりと正体を明かされたので、言葉の意味を理解するまで、僕には少し時間が必要だった。
「このままだと俺の不戦勝になっちまうぞ」
 子供の魔王は頬を膨らませた。
 まるで、勇者と戦うのが楽しみだと言わんばかりだ。
 それとも戦う前から勝負は決まっていると言いたいのだろうか。
 けれど、勇者と魔王の戦いの歴史を顧みれば、そのすべてが勇者の勝利に終わっている。
 どう考えても勇者の方が不利に思われるのに、だ。
 僕はまだ教わっていないが、きっと奥義か特別な武器のようなものがそのうち授けられるのだろう。
 このチビ魔王は、そのことを知らないのだろうか。
 魔王はなにも言わない僕に痺れを切らしたのか、僕の頬を爪でツンツンと突っつきはじめた。
「おい、なんとか言え」
 僕は口を開き、声を絞り出した。
「お腹に怪我をしているんだ……息をすると痛い」
 魔王は首を傾げた。首元に結ばれた黒いレースタイが揺れる。
 僕は改めて小さな魔王を観察した。
 真っ黒なシャツに紫と銀の縞模様のベストを合わせたスタイルは、色こそ普通ではなかったが貴族や王族の装いだった。背丈から判断するに僕とあまり年は変わらないように見える。角と耳と肌色以外は、ほぼ人間と同じだった。
 魔王は、毛布の上から僕の身体に視線を走らせると、おもむろに手を振り上げた。
 そして、僕のお腹らへんで手を翳した。
「ふうん、本当だ。結構深いな。なんで医者とやらのところに行かない?」
「二、三日寝れば治ると言われた」
 騎士は上に報告しない代わりに、講義を中止するよう神父に命じた。勇者は疲労がたまっているようだから休養が必要だと嘘をついたのだ。
 与えられたのは痛み止めの粉薬ひと包みのみ。
 効き目は直ぐに切れた。
「治してやりたいところだけど、お前には魔力が効かないからなあ」
「そうなの?」
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