この世界が終わるまで 勇者の僕は恋をする

すなぎ もりこ

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出会い

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 ずっとひとりだった。
 友だちなどできたためしがない。
 僕は誰かと親しくなることをとうに諦めていた。
 
 やがて瞬きするのも億劫になった。
 月明かりに燻されて瞳がどんどん乾いていく。
 涙を忘れた僕の目はいつまでたっても潤わない。
 このままどんどん蒸発し、塵になって散ってしまえばいい。
 僕の名を呼んでくれたおじいちゃんももういない。
 僕がいなくなっても、悲しむ人などどこにもいない。
 だからこそ僕が選ばれたのだ。きっとそう。
 僕が駄目になったって大丈夫。
 偉い人たちはまた新しい勇者をでっちあげるだろう。
 
 闇に浮かぶ黄色くてまあるい輪郭がぼやけていく。
 
 そのとき突然、真っ黒な何かが月を半分覆い隠した。

 僕は思わず瞬いた。
 止まらなくなった瞼の開閉が『それ』の正体を突き止める邪魔をする。
 真っ黒な何かは窓に張り付いてこちらをじっと見ているようだった。
 なぜなら『それ』には目のようなものがついていたからだ。
 そして、それは、噴き出した血のように真っ赤な色をしていた。
 
 人ならざる者の色だ。
 魔を司る邪悪な色だ。
 
 叫ぼうとしたけれど、喉が貼りついて声が出ない。僕ははくはくと口を動かすのみだ。
「勇者ともあろうものが情けない」
 どこからか神父のあざ笑う声が聞こえてくる。
 
 仕方ないじゃないか。
 僕はまだ見習いだ。
 勇者になりきれていない半人前なのだ。
 魔族と戦う術も力も持ち合わせていない。
 非力な、子供なのだ。
 
 魔族であろう『それ』は窓を開けて、するりと中へ入り込んだ。
 真っ黒な身体を揺らしながら静かにベッドへ近づく。
 そして、真上から僕を覗き込んだ。
 
「お前、死ぬのか?」
 
 予想外に高い声で思いがけないことを訊ねられ、僕は拍子抜けをする。
 がちがちに固まっていた身体から力を抜き、真上にある顔に目を凝らした。
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