眠らせ姫と臆病侍

すなぎ もりこ

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【最終話】臆病者たちは輝く

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 舌を絡ませながら、浅緋は上茶谷の身体をゆっくりとベッドに沈めた。
 細い腕が背中に回される。
 浅緋は指で蜜を陰核に塗りつけながら上茶谷を高めていく。
 快感に身体を反らす上茶谷。
 豊満な胸が押し付けられ、そのむっちりとした感触が興奮を煽る。

「はあっ、そよちゃん、好きだっ」
「んんっ、広瀬さん、あ、あ、」

 唇を半開きにして甘い吐息を放つ、最高に美味しそうな獲物を前に、浅緋の中の獣がようやく放たれる。
 浅緋は滾るものを握り、蕩ける泉に押し込んだ。
 上茶谷の中は確かに少しキツかった。
 しかし、何より温かく、柔らかく…浅緋は恍惚として擦り付ける。

「ああっ、良いよスゴく」
「は、はあん、やっ」

 腰を掴んでグッと押し込み、ゆるゆると揺らせば、上茶谷は身体を仰け反らせて喘いだ。

「あん、いっぱいです、はああっ」
「全部入ったからね」

 浅緋は上茶谷のなだらかな下腹部を撫でた。

「ほら、ここに俺のが入ってる」
「はいぃぃ、入ってますぅ」

 浅緋は上茶谷の中を腰を回して味わい、一旦腰を引く。
 すると、上茶谷がガバッと抱きついた。
 足を腰に絡めて引き止める。

「嫌です、抜かないで!」
「そよちゃん」
「まだ、このままで、お願いします」

 懇願する上茶谷にちゅ、と口付けた。

「可愛い、そよちゃん。寂しいの?」
「広瀬さんが好きです。ずっと一緒にいて……離れていかないで」

 上茶谷は浅緋にしがみつく。

「もちろんだよ」

 背中に回された手をそっと外して握りこんだ。

「俺が君を離す訳が無い。ギチギチに何重にも結ぶつもりだ。だから、君も俺を離さないで」

 上茶谷は目を潤ませて小さく頷いた。

「そうでした。私はロープワークも得意なんでした」
「そう、そよちゃんは多彩なスキルを持つ凄い子だ。自覚した方が良い……と、いうことで、そろそろ動きたいんだけど」
「あ、は、はいっ、どうぞご存分に!」

 上茶谷は慌てて浅緋の腰に掛けた足を下ろした。

「抑えてた分、相当荒ぶっちゃうかも」
「荒ぶる広瀬さん楽しみです!」
「言ったね、後悔しないでよ」

 引き止めるようにねっとりと絡みつくひだを押し切り、浅緋は腰を引いた。
 そして、再びゆっくりと戻す。
 ズブズブと潜り、隙間から蜜が溢れた。

「はあっ広瀬さん!」

 上茶谷が目を瞑って震える。
 太腿もふるふると揺れている。

「気持ち良い?もっと?」
「はいぃぃ、もっと、もっと擦って下さい」

 浅緋はその言葉に箍が外れたように、激しく中を突いた。
 上茶谷の高く鳴く声が耳を犯す。
 全身が熱く沸騰し、もはや止められなくなった腰が柔らかな身体を無茶苦茶に貪る。

「はっ、はあっ、そよちゃん、ごめん、止まらない
 !!」
「あ、あ、あ、ああっ、ダメぇ!!」

 やがて腰に集約した嵐のような欲望が、ペニスの先端へ一直線に駆け抜けていく。
 浅緋は上茶谷を深く貫いたまま、それを放つことを自分に許した。

「そよちゃんーーー!」

 身の内から獣が解放された瞬間、なんとも言葉では言い表せないほどの幸福感が押し寄せた。
 浅緋は上茶谷の上に倒れ込み、しっとりした肌に頬を押し付けた。


 目を開けると、部屋が薄らと白んでいた。
 浅緋は身体を起こして髪を掻き混ぜる。

「マジか~!寝ちゃったの俺……」

 なんたる不覚!!
 三回は出来ると踏んでたのに。
 思い返せば、あまりに楽しみにし過ぎてこの一週間まともに寝ていなかった。
 浅緋は、静まり返り、冷えた空気の充満した部屋を見回す。
 上茶谷は気を利かせて帰ってしまったのだろう。
 昨晩脱がせた服が消えている。
 浅緋の服は綺麗に畳まれてチェストの上に置かれていた。

 上茶谷の寝顔が見たかった。
 温かい身体を抱きしめて、足を擦り寄せて目覚めたかった。
 それで、朝からまた抱き合って……
 甘い休日を過ごす予定が崩れ、浅緋はガッカリして項垂れた。

 その時、ガチャリとドアノブが回された。
 浅緋は思わずベッドから飛び降りる。

「あ、起きました?」
「そよちゃん!!」

 浅緋は駆け寄って抱き締める。

「わ、どうしました?あ、あの、勝手にシャワーをお借りしちゃったんですけど」
「良かった。帰ってなかったんだ」
「ええと、鍵を開けたまま帰るのは物騒ですし…図々しくも泊まるつもりで着替え一式持って来てました!実は!」

 上茶谷はてへっと笑った。

「ずっと居ていいよ」

 浅緋は上茶谷のおでこにキスをする。

「良くお休みでしたね。夢魔は祓われた筈なのに眠らせる力は残ったんでしょうか」
「かもね。お陰様で気力も体力も充実してる……だけど」

 浅緋は、シャワーを浴びたばかりの髪の甘い匂いを嗅ぎ、首筋に顔を埋める。

「困ったことに精力は残ってる」
「もう、朝から何をっ!」

 ブラウスの胸元に指を掛け、顔を埋めて息を吸い込んだ。

「お願い、もう一回しよ?」
「シャワーを浴びたばっかりです」
「ほら、何度もシて研究しないとさ」
「や、やっぱりイマイチでしたか?!」

 浅緋が顔を上げると、上茶谷がしゅんと項垂れていた。

「いや、物凄く良かった。あんなエロいセックス初めて」
「エ、エロエロエ……そ、そう?」
「でも、気のせいかも」
「ええっ?!」
「と、いうことで、確かめてみようか」

 浅緋は上茶谷を引きずってベッドへ向かう。

「おっぱいを舐めながら挿れたいからさ、対面座位か騎乗位を試してみようか」
「えっ、えっ、た、たい?き、きじょっ?!」
「君が上手に育ててくれたからさ、俺の息子はそれは良く反応するようになっちゃって、既に臨戦態勢なの」

 上茶谷の手を取って、股間に擦り付けた。

「ちゃんと面倒みてね」

 上茶谷は顔を真っ赤に染めて、涙で潤んだ目を向ける。
 浅緋はそれをうっとりと見つめながら顔を近付けた。



「良い娘さんじゃないか」
「うん。浅緋にしては珍しく」

 伯父と蒼士が笑みを浮かべて向ける視線の先には上茶谷がいる。
 伯母に絶品素麺とやらが入った紙袋を手渡している。
 どうしても御礼を差し上げたいと頼み込まれて田出呂神社に連れてきたのだ。

「……まさか二人とも……見てないよね?」

 浅緋の問いに二人は答えず、目を細めるのみだった。
 本当は答えなど聞かなくても、自ら見ずとも確信しているけれど。

「そもそも妖怪をくっつけた人間が、ここへ出入り出来た事自体おかしいよな」
「離れは結界が緩いとはいえ、田出呂苺山全体が御祭神の縄張りだからなぁ」
「御祭神がわざと見逃していたってこと?!」
「……でもまあ、見鬼のお嬢さんにも会えたし、貴重な天狗の捕物も見れたし……良かったな!これからも頑張ってくれ、頼りにしてるぞ」

 伯父は満足そうに笑い、浅緋の肩を叩いた。

「いや、俺達はもうお役御免だよね?元々伯父さんが戻るまでっていう約束だったし、来年には橙樹も戻って来るだろ?」
「アイツねぇ……力はあるんだけどよ……」

 伯父は遠い目をして、言葉を切った。
 浅緋と蒼士は顔を見合わせる。
 橙樹は田出呂神社の跡取り、つまり、浅緋と蒼士の従兄弟だ。

「宮司~ちょっとお願いします!」

 権禰宜に呼ばれ、伯父は社務所へと向かった。
 身なりの良い男が権禰宜の横に立っているのが目に入る。

「祈祷かね、それとも飛び込みのお祓いか」
「どちらにせよ俺達の出る幕はないさ、人は足りてるし。お前ももう帰るだろ?」

 蒼士と連れ立って上茶谷と伯母の元へ向かう。
 おむすびを届けに来ていたモカが社務所の玄関から出てきて、伯母と上茶谷に加わった。

「せっかくだから皆でお昼を食べていけば?」
「伯母さん、俺達は今からそれぞれデェトなの!邪魔しないで」
「まあ、なによう、緋ぃちゃんたら冷たいわ」

 伯母は口を尖らせる。
 和気あいあいと話すその輪の中へ、伯父が慌てて飛び込んできた。

「おいっ、直ぐにハンナさんに連絡を取ってくれ」

 皆は伯父に顔を向ける。

「管轄外の案件が来た」

 伯母は慌てて割烹着のポケットからスマホを取り出して操作する。
 浅緋と蒼士は先程の参拝客を振り返る。
 一見してオーダーメイドとわかる高級スーツを着こなす男は、物憂げに髪をかきあげた。
 その袖に不自然に光るもの。

「やたらと目立つカフスボタンだな。アンティークか?」

 蒼士が呟く。
 生暖かい風が吹き寄せて、頬を撫でた。

 浅緋は上茶谷に駆け寄って手を握る。
 蒼士もモカの手を引いて、足早に歩き出した。

「もう帰るんですか?ご挨拶を……」
「良いから」

 人ならざる者には進んで関わることなかれ。

 広瀬家に代々伝わる家訓だ。

 不思議な力を授けられた広瀬家の一族だが、決して万能ではない。
 人とは違う理(ことわり)で存在する者共にはこちらの常識など通じない。
 最小限の干渉にとどめる事が重要だ。
 儀式で稀に扱う悪霊、例えば、念だけが人から切り離されて形も成さないものなどには、思考すらないのだ。

 浅緋と蒼士は祝詞を小声で唱え、印を結ぶ。

「おい、浅緋、蒼士!!」

 背中に掛けられた伯父の声を無視し、大切なパートナーの手を引き、浅緋と蒼士は揃って駆け出した。

 ここは、逃げの一手だ。

「ごめん、伯父さん!彼女らを巻き込む訳にはいかないからさ!」
「先ずはこっちが最優先だからさ、悪い!」

 伯父は腕を組み、口をへの字に結んで暫くこちらを見ていたが、伯母に袖を引かれると苦笑いをして視線を外した。

「良いんですか?」
「ハンナさんが呼び出されたってことは妖怪案件だよね?」

 上茶谷とモカが息を弾ませながら訊ねる。

「知らねぇ、御祭神が何とかしてくれるだろ!」
「そうそう、天狗様もいるし!」

 指を絡ませた手を引きながら、浅緋は、もう武装をする事を止めた美しい恋人を振り返る。


 俺達は脆弱で見栄っ張りで、傷付く事に怯える怖がりだ。
 偽ったり、隠れたり、逃げたり……
 そうやって回り道や抜け道を必死で探すのも
 この世界を諦めたくないから。
 この世界を泳ぎ抜き、自分の手で運命を掴む、
 その望みを捨てきれないからだ。

 そう、俺達は生きることに貪欲で
 そのくせ退屈なリアルに染まることも嫌う
 我儘な臆病者。

「逃げろ!!」

 まるで、ガキの頃に戻ったように、四人は駆ける。

 笑いが込み上げて、息がきれる。
 それすらも、生きている証。

 この青い空を天狗のように飛べなくても
 不自由な理に絡め取られてもがいて
 みっともない姿を散々晒しても
 命は輝く。

「はあっ、もう走れません」

 ヨロヨロと足をふらつかせる上茶谷を抱き寄せて、浅緋は深く息を吸い込んだ。
 波打つ鼓動が重なる。

「体力ないなぁ」
「すいません、う、運動は苦手で……」
「確かに、三回が限界だもんね」
「なっ、何の話……」
「俺も手伝うからさ、今日から体力増強トレーニングをしようか。朝晩二回ずつで慣らしていこう」
「にゃ、にゃにを、二回?!」
「ナニを二回にゃんよ」

 浅緋は上茶谷の髪に頬擦りした。

「頑張ろうね、そよにゃん」
「そよにゃんってにゃにっすかーーー?!」

 もがく柔らかい身体を、ぎゅうぎゅう抱き込む。
 少し離れた先で蒼士とモカが立ち止まり、呆れつつも笑って見ていた。
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みんなの感想(6件)

ぱら
2023.07.20 ぱら

完結おめでとう㊗御座います!!

そよにゃんに挟んで貰えて良かったな。
(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷ ⌑ ᵒ̴̶̷⸝⸝⸝)
しかし待ち遠しくて寝不足!小学生みたいで可愛いな(*´꒳`*)💕

男爵は…逃げた方が良さそうだね?
‧˚₊( ˶ ⁰∀⁰)‧˚₊

すなぎ もりこ
2023.07.20 すなぎ もりこ

念願の……パイ……!!

一応中締めということで、レギュラー全員出させて頂きました。

男爵はハンナに会えて嬉しかったことでしょう。
さて、天狗と男爵……どっちに軍配が上がったのでしょう?
やっぱり天狗かな~

解除
ぱら
2023.07.20 ぱら

|ू・ω・` )…浅緋はおっぱい魔人?

すなぎ もりこ
2023.07.20 すなぎ もりこ

人が妖怪になる時って
そんな些細なきっかけなのかも
しれないね……

解除
りん
2023.07.20 りん

私、見鬼シリーズ大好きだ!
自分的に一番可愛いと思うのは

浅緋✨٩( ᐛ )۶

すなぎ もりこ
2023.07.20 すなぎ もりこ

浅緋が一番、可愛気がありますね。
……というか、普通……?
一所懸命で健気です(;-;)♡

解除
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