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 スノウの私室から出たグリンバルドは、前髪を小指で整えつつ向きを変えた。顔を上げれば、廊下の先に待ち構えている大柄な人影が見える。グリンバルドは小さく息を吐くとその人物に向かって足を踏み出した。
「おめでとうございます。グリンバルド様」
「お黙りなさい」
「なんだよ、祝福してやろうと思ったのに。しつこくねちこく思い続けて良かったですねぇ」
「待ち構えているなど趣味が悪い」
 ジャックは肩をすくめ、無精ひげに覆われた口の端を上げる。
「朝から二人で部屋に籠って出て来ねぇから、侍女長をはじめ他の奴らが心配しちまってよ。扉に耳をつけようとするから見張ってやってたんだよ」
「皆には近づかないように言っておいたはずですが」
 グリンバルドは、疑わし気にジャックを見た後、ポケットから取り出したカフスを袖に取り付けた。
「それと、お客様がお待ちです」
 ついでのように告げたジャックを睨み、グリンバルドは筋肉に覆われた厚い肩を押す。わざとらしくよろけた汗臭い身体の横をすり抜けた。
「それを先に言いなさい。本当にお前という奴は。それで、どなたです?」
 応接室に向かい歩き出したグリンバルドの後ろから、ジャックがのんびりと答える。
「ドワーフ公爵です。あの物騒な七姉妹のお父上ですよ」
 グリンバルドは足を止め、後ろを振り返った。
「主人は今取り込み中でお会いできるかわからないと言ったんですが、待たせてほしいとおっしゃいまして」
「――ほう。こんなに早く接触を図られるとは。しかも公爵自ら足をお運びになるなど。よほど動転していらっしゃるのですね。誰かを伴っておいででしたか?」
「公爵に付き添っていたのは侍従ひとりですよ。ただ、早朝に下男が馬車を目撃している。胡散臭そうな男たちを乗せて例の屋敷へ向かっていったそうです」
 顎に手をやり、グリンバルドは考え込んだ。髪と同じシルバーのまつ毛に、午後の日差しが反射して散る。
 やがて、グリンバルドはそっとほほ笑んだ。
 壮絶な美しさを湛えたその表情に、見慣れているはずのジャックでさえ、しばし見惚れる。
「いいでしょう、想定内です。とりあえず交渉といきましょうか。ジャック、お前も手を貸しなさい」
「へ? 俺も?」
 ジャックは目を瞬きながら、グリンバルドのあとを追った。
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