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 口付けとは、唇同士をくっつけ合うだけのものだと思っていた。しかし、これはなんだ。想像していたものとまるで違う。
 スノウは朦朧としながら考えていた。
 男同士の行為を想像し、後ろの穴を指で弄ったりもしたが、口付けだけはひとりでできるものではない。枕に吸い付いたりしてみたが、ガサガサとした布の感触からは何の快感も得ることはできなかった。
 だが、実際はどうだ。
 縦横無尽に動く舌に貪られて呼吸もままならない。まるで、喉が渇いた獣に唾液を吸い取られ、口内を味わい尽くされているようである。絡めとられる舌から唾液が零れ落ち、顎を伝う。ぬちゃぬちゃという粘っこい水音が耳を犯した。
「ん、んふぅ」
 甘えたように鼻から抜ける声が、自分のものとは思えない。スノウはグリンバルドの上着を掴み、崩れ落ちそうになる身体を必死で支えた。
「ああ、なんて甘い。まるで蜂蜜のようだ」
「そ、そんにゃわけ……あっ」
 舌に吸い付かれ、舌先で裏を撫でられるという未知の感覚に、身体が痙攣するように波打つ。閉じた目の端から涙が溢れ堕ちた。
 スノウは必死で空気を吸う。
 やがて、激しい快感と熱で、身体がぐずぐずと溶け始めた。
「ああ、夢のようです。貴方の唇をずっと味わいたいと願っていました」
 荒い息づかいとともに、上ずった声が落ちてくる。
「私の元に戻ってきたことを後悔してももう遅い。二度と離しませんよ、スノウ様」
「も、逃げない、逃げないから、ちょっと待て……色々追いつかない」
「ここで冷静になられても困りますので。混乱しているうちに一気に攻めたいのですが」
「ひっ、卑怯だぞ、貴様」
「お預けを食らうのは御免被ります。今までずっといい子で我慢をしていたのです。随分長いこと欲望を溜め込んでいた。解放したからにはもう止まれません」
 グリンバルドはスノウの首を撫で、顔を埋めた。密着した身体は驚くほど熱い。
「私は貴方にしか欲情しない可哀想な男です。どうか、お救いくださいスノウ様」
 懇願され、スノウは途方に暮れる。
 果たして自分にこの男が救えるのだろうか。
 スノウにはまるで自信がなかった。
 なにしろ、口付けごときで腰が砕けそうになる素人である。行為に至る前に、気絶してしまいそうだ。
 スノウはリアルの圧倒的な迫力に怖気づいていた。グリンバルドに裸の身体を見られ、触れられると想像するだけで絶叫したくなる。
「僕に相手が務まるだろうか」
「スノウ様にしかできません」
「昨晩は湯あみもしていないし、臭いかも」
「スノウ様が臭いわけがございません。今も酔ってしまいそうなほどの芳しい匂いを放っておいでです。もし、気になるのであれば、薔薇のオイルを塗って差し上げましょう。全身に」
「全身に……馬鹿を言うな」
「こんなにも滾っているというのに。私に着衣したまま射精をしろというのですか」
「なんてことを言うんだ。そんなことはさせないぞ。ズボンの中で粗相をするなど駄目だ! グリンバルドにそのようなことをさせられるか!」
「では……」
 首元からするりと指先が滑り込み、熱い掌がスノウの肌を撫でた。全身が粟立つような感覚に、スノウは小さく悲鳴を上げる。
「この邪魔な衣服を脱ぎ去り、肌で触れあいましょう」
 シャツがはだけられ、薄い胸の中央にグリンバルドが口付ける。
「ベッドに横になってくださいスノウ様。ご安心を。ひどいことは致しません。不本意ですが私は旦那様で慣れております。すべて、この私にお任せください」
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