スノウ・ホワイトは家出中

すなぎ もりこ

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 馬の足音を聞きつけて侍女長が駆け付ける。馬から下りたスノウの両腕を掴み、目を潤ませた。普段から表情に乏しい侍女長が感極まっている様子を目にして、スノウは戸惑った。
「ご無事でよかった……スノウ様、よくお帰りくださいました!」
「し、心配をかけてすまなかった。もう黙って家を出たりしないから安心しろ」
「あのような化け物屋敷には、二度と行ってはなりませんよ!」
「あ、はい」
 侍女長の剣幕に押され素直に頷くスノウを見て、ジャックが便乗する。
「俺もあんな薔薇臭いところは勘弁ですよ。二度と迎えに来させないでください。鼻水は出るわ身体は痒いわ最悪ですよ」
「お前は自分の事ばかりだな。少しは僕の心配をしろ」
「これでもちゃんと心配してますよ。でも俺があんまり坊ちゃんを構うと、臍を曲げる奴がいるんですよ。チクチク陰険に虐めてくる奴が」
 並んで馬上にいたグリンバルドが、足を伸ばしジャックの脛を踵で蹴った。
「お前は早く戻って鼻を洗いなさい。スカーフが鼻水でびしょ濡れではないですか。汚い」
「酷い……」
 グリンバルドは馬を下り手綱をジャックに押し付ける。ジャックは渋々下馬するとそれを受け取り、二頭の馬を引いてとぼとぼと歩き始めた。背中に背負った猟銃が肩甲骨にコツリと当たる。ジャックは夜空を見上げ、煌々と輝く月を眺めた。
 結局、これの出番はなかったな……なんだか少し残念だったりして。
 ジャックは自分の中にある狂気を感じ取り、ひとり笑うのだった。
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