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「グリンバルドに触るな!」
 突如として背後から声が聞こえ、左下で襟をつかんでいた少女の身体が後方へ飛ぶ。
 颯爽と現れた白い袖が、グリンバルドにしがみついていた少女を次々と引きはがしていった。
「誰の断りを得てグリンバルドに纏わりついている! このクソ女ども!」
 彼はグリンバルドの脇を潜り抜け、呆気にとられる少女の肩を突く。
「く、くそ……っ? スノウ様、なんてことをおっしゃるのです! その男は私たちを脅してスノウ様から引き離し、あの牢獄へ閉じ込めるおつもりだったのですよ!」
「嘘を言うな! お前たちの方がグリンバルドに迫っていただろうが、このクソビッチが!」
「ま、またクソ、ビッ……そんな汚いお言葉を口にしてはいけません!」
「僕に指図するな! お前たちなんかにグリンバルドは渡さないぞ!」
 グリンバルドは、前に立ちはだかる華奢な後姿を凝視する。
 彼は腕を振り上げ、ドワーフ家の令嬢を威嚇していた。細い身体から滲み出る熱い怒りを察知し、胸が熱くなる。
「スノウ様、私は大丈夫でございます。お嬢様方はまったくもって私の好みではありませんので」
 スノウは首を回しこちらを振り仰いだ。
 興奮で赤く染まった頬に触れ、グリンバルドは囁く。
「この世の至宝を間近で目にしてきた私にとって、ほとんどの者は石ころ同然。拾う価値もないのです」
 スノウはたちまち顔中を真っ赤に染め、もじもじと身体を縮ませた。
「だ、誰のことを言っているのだ。あの家には年嵩の使用人と不潔な猟師しかいないではないか」
「いらっしゃいますよ。いつまでももぎたての林檎の様にお可愛らしく私の心を惹きつけてやまないお方がね」
「……お前がいうところの林檎はもう腐っている。……きっと、美味しくないと思う」
 グリンバルドはスノウの細い腰を引き寄せ、背後から抱き込む。周囲から悲鳴のような声が上がった。
「スノウ様はよくご存じでしょう? 私は一番おいしい果実を見分けることができる。それに、美味しくいただく術も心得ている」
 ぎぃゃああああああ――――!! 
 悶え蠢く令嬢たちに見せつけるよう、グリンバルドはスノウの小さな耳に唇を寄せる。
「お疑いなら今夜、じっくりと証明してご覧にいれましょう」
 腕の中の身体がふるふると身じろぎする。グリンバルドは柔らかな黒髪に顔を埋め、甘い声で命じた。
「帰りましょう。スノウ様」
 スノウはこくりと頷く。そして、くるりと振り向きグリンバルドの腕に繋がった。
「早く帰ろう、グリンバルド」
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