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 その隙に、ひとりの少女が近づき手を伸ばす。
 グリンバルドの前髪をすくい上げ、左目を晒した。
 その途端、目の前の顔が醜く歪む。
「これでは駄目よ。欠陥品だわ」
 背後にいた少女らもあからさまに落胆の表情を浮かべ、嘆いた。
「せっかく珍しい色の目なのに、ひとつだけなんて」
「がっかりだわ」
「二人を並べたらさぞ絵になったことでしょうに」
 グリンバルドは少女の手をそっと外し、穏やかに戒める。
「レディ、少しばかり無礼ではないですか? 初見の人間に断りもなく触れ、あまつさえ罵るとは」
 少女は悪びれもせず言い返す。
「あら、素直な感想よ。それに貴方の方が私たちより身分が下じゃない」
「身分の上下に関わらず敬意をもって接するのが紳士淑女の嗜みでは?」
「くだらない。偽善だわ。私たちはそんな薄っぺらな思想に囚われたくないの。自由に生きるのよ!」
「ほう、このように不便な森の中で、まるで人の世から隔離されたようにお暮しなのに?」
 途端に少女は黙り、残りの姉妹も苦々しい表情を浮かべて視線を交わし合った。
「……別に、さほど不自由でもないわ。ここにだって美しいものはある。土が肥えているから薔薇は年中綺麗に咲くし、薔薇に集まった蜜蜂から質のいい蜂蜜も採れるしね。それに、なんといってもスノウ様がいらっしゃる!」
 少女は両手を握り合わせ天を仰ぐ。
「あのように可憐で美しい方は王都にだっていない! 烏の羽のように真っ黒な御髪に乳の様に白くまろやかな肌、瞳の青はつゆ草の様に寂しげに沈み、そのくせ艶めかしい血のように赤い唇! 細い首も華奢な指先も……なにもかもが完璧だわ!」
 同意し、激しく頷く少女たちに囲まれて、グリンバルドはピクリと眉を動かした。先ほど乱れされた前髪を指先で整え、その右手越しに笑みを浮かべる。少女らはハッと息を呑み、凍り付きそうな冷気を発する美麗な男に釘付けになった。
「あの方を語るのは止めていただけますか。不愉快です」
 殺気を乗せた漆黒の瞳に反し、薄い唇は弧を描く。
「貴女にスノウ様の真の素晴らしさなど理解できるわけがない。よくもその濁った眼を向け、汚れた手で触れてくれましたね。到底許せません」
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