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 月明かりが照らす森の小道を、グリンバルドとジャックは馬を走らせていた。
 ジャックは前を行く男の背中を眺める。黒いケープコートを靡かせ颯爽と鞭を振るう姿は、男の目から見ても惚れ惚れするほどの貴公子だ。逞しくもスマートな身体つき、背中に流れるシルバーブロンドは月明りを反射しキラキラと光彩を放っている。改めてグリンバルドの美しさを思い知った。
 ーーしかも、頭も良くて有能ときている。
 侍女長に言われてついてきたが、自分が役に立つのか甚だ疑問である。
 しかし、相手は公爵家だ。主人はか弱い姉妹とはいえ、人数では圧倒的に不利だ。武器を持ち出される可能性もある。
 ジャックは馬を操りながら、背中に背負った猟銃を確かめる。一応弾丸は七個用意したが、人を撃つなど御免被りたい。これが夜狩りだというなら気分も上がるのだが……
 やがて、鼻腔が甘い香りを察知する。ジャックは首に巻いたスカーフを引き上げ、顔の下半分を覆った。
 やがて視界が開け、ドワーフ家の別荘が現れた。左右を薔薇に挟まれたアプローチの先には煌々と燃える松明がある。真っ黒い森を背景に夜空に浮かび上がる屋敷は、幻想的でかつどこか威圧感があり、闇に潜み人を食らう怪獣のように見えた。昼間の馬鹿みたいにメルヘンチックな姿とは大違いである。
「突然訪ねて来ちゃったけど、大丈夫なんですかね? 夜も遅いし門前払いを食らったらどうします?」
「火急の用だと言えば、追い返すことはできないでしょう」
 ジャックは隣に歩く男の横顔を見る。端正な顔をまっすぐと上げ、前を見据える瞳の中には決意が見て取れた。
 ジャックはゾクゾクとこみ上げる感情に胸を震わせる。
 長くこの時を待っていた。二人の苦悩とすれ違いを知りながらも、余計な口は出すまいと柄にもなく自分を戒めていた。しかし、もどかしくてたまらなかった。きっと侍女長も同じ気持ちでいたに違いない。
「坊ちゃんに拒否されたらどうするんです?」
「……スノウ様が望むものは完全には差し上げられないかもしれませんが、努力をすると申し上げます。あの方の喜ぶことは私が一番知っている。ぽっと出のお嬢様方には負けません」
 ジャックは喉を鳴らして笑いながら、背中にある猟銃を身体の前に回し両手で抱えた。
「この俺様が援護してやるよ。安心して背中を預けてくれ、わが友よ」
 グリンバルドは視線だけを向け、面倒くさそうに応える。
「お前は自分の心配をしなさい。そのスカーフは外さないように。発作を起こされては迷惑です」
「へいへい」
 たどり着いたクリームイエローの扉の前に二人は並んで立ち、視線を合わせた。小さく頷いた後、グリンバルドは足を踏み出す。人の手を模した悪趣味なドアノッカーを掴んで三回鳴らした。
 程なく扉の向こうから足音が聞こえ、家令と思われる男の声が問うた。
「このような夜分に何用か」
 使用人とはいえ、さすが公爵家の者、高圧的である。七人のご息女を任されているのだから警戒するのは当然だろうが、それにしても感じが悪い。ジャックは鼻を鳴らした。
 しかし、グリンバルドは怯むことなく、更に横柄な口調で答える。
「こちらに当家の者が邪魔しているだろう。迎えにきたので開けてもらおう」
 しばしの沈黙の後、男は告げた。
「少々お待ちを」
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