21 / 51
㉑
しおりを挟む
「おいおい、止めてくれよ。まさか、その事件にドワーフ家が関わっているっていうのか?」
ジャックはわが身を抱きしめ、両腕をさする。大きな身体を縮こめて怯える猟師を見て、グリンバルドは呆れた。
普段は躊躇なく獣の命を奪い嬉々として皮を剝いでいるというのに。人を食ったような態度とは裏腹に、人の悪事にはめっぽう弱いと見える。
侍女長はジャックには目もくれず話を続けた。
「そして、彼らの家と学校を結ぶ道の途中には、ドワーフ家の本宅があります」
「それだけの理由で疑うのはどうでしょうか」
「目撃証言があります。本宅から連れられてきた侍女がこっそり打ち明けてくれたそうです。令嬢たちに誘い込まれる被害者のひとりを見たと」
「見間違えでは」
侍女長の過熱していく口調を危ぶみ、グリンバルドは眉を寄せる。しかし、彼女は止まらなかった。グリンバルドの胸に拳を当て、訴える。
「かどかわされた美しい少年少女と大量の蜜蝋です、グリンバルド様。この上なく禍々しくおぞましい組み合わせではないですか!」
グリンバルドは短く息を吸い込んだ。しかし、浮かんだ考えを否定するように頭を振る。
「馬鹿な……侍女長、聡明な貴女にしては陳腐な推理だ。妄想の域を出ない」
「ドワーフ家のご息女たちは揃って美しいものが大好きなのです。彼女らの部屋は人形で溢れていたと言います。きっと造り物では飽き足らなくなったのです」
「……彼女たちが蜜蝋で人形を造っていたと? それが目的で子供たちを攫っていたというんですか? 馬鹿らしい、あまりに危険なお遊びです。公爵が許すわけがない」
緊迫した雰囲気で見つめ合う二人の間に、ジャックがそっと割り込んだ。
「……なあ、人形のモデルにするだけなら子供たちはもう解放されている可能性があるよな。それか屋敷で雇われていたりして。口止めするより見張っていた方が確実だしさ……なに?! 俺なんか変なこと言ってる?!」
グリンバルドと侍女長に厳しい表情で睨まれ、ジャックは狼狽える。侍女長は、はぁと息を吐き、図体ばかり成長した青年の頭を叩く。
「この物知らず! だからあれほど学校には通えと言ったのに。森に籠って罠ばかり仕掛けているから無知な大人になってしまったんだわ。テリーもテリーよ、散々甘やかして」
「親父は関係ないだろ―」
口を尖らすジャックにグリンバルドは淡々と説明した。
「ジャック、蝋人形は他の人形とは違うのです。我が国には蝋人形師がいますが、その者以外に蝋人形の制作は許されていません。なぜなら、王宮の特権だからです」
「贅沢品ってこと?」
「確かに彼らの給金は破格値ですが、理由はその制作方法にあります。蝋人形を造るにはまず粘土で型を取る。そして、その中に蜜蝋を流し込んで固めます。その表面を本物そっくりに細部まで着色し……仕上げに、モデルとなった人物の毛髪や爪を接着するのです」
ジャックはポカンと口を開けてグリンバルドを見た。隣に立つ侍女長は腕を組み、一段と顔を険しくする。
「つまり、我が国の蝋人形はモデルの死後に作られるのです」
ジャックはわが身を抱きしめ、両腕をさする。大きな身体を縮こめて怯える猟師を見て、グリンバルドは呆れた。
普段は躊躇なく獣の命を奪い嬉々として皮を剝いでいるというのに。人を食ったような態度とは裏腹に、人の悪事にはめっぽう弱いと見える。
侍女長はジャックには目もくれず話を続けた。
「そして、彼らの家と学校を結ぶ道の途中には、ドワーフ家の本宅があります」
「それだけの理由で疑うのはどうでしょうか」
「目撃証言があります。本宅から連れられてきた侍女がこっそり打ち明けてくれたそうです。令嬢たちに誘い込まれる被害者のひとりを見たと」
「見間違えでは」
侍女長の過熱していく口調を危ぶみ、グリンバルドは眉を寄せる。しかし、彼女は止まらなかった。グリンバルドの胸に拳を当て、訴える。
「かどかわされた美しい少年少女と大量の蜜蝋です、グリンバルド様。この上なく禍々しくおぞましい組み合わせではないですか!」
グリンバルドは短く息を吸い込んだ。しかし、浮かんだ考えを否定するように頭を振る。
「馬鹿な……侍女長、聡明な貴女にしては陳腐な推理だ。妄想の域を出ない」
「ドワーフ家のご息女たちは揃って美しいものが大好きなのです。彼女らの部屋は人形で溢れていたと言います。きっと造り物では飽き足らなくなったのです」
「……彼女たちが蜜蝋で人形を造っていたと? それが目的で子供たちを攫っていたというんですか? 馬鹿らしい、あまりに危険なお遊びです。公爵が許すわけがない」
緊迫した雰囲気で見つめ合う二人の間に、ジャックがそっと割り込んだ。
「……なあ、人形のモデルにするだけなら子供たちはもう解放されている可能性があるよな。それか屋敷で雇われていたりして。口止めするより見張っていた方が確実だしさ……なに?! 俺なんか変なこと言ってる?!」
グリンバルドと侍女長に厳しい表情で睨まれ、ジャックは狼狽える。侍女長は、はぁと息を吐き、図体ばかり成長した青年の頭を叩く。
「この物知らず! だからあれほど学校には通えと言ったのに。森に籠って罠ばかり仕掛けているから無知な大人になってしまったんだわ。テリーもテリーよ、散々甘やかして」
「親父は関係ないだろ―」
口を尖らすジャックにグリンバルドは淡々と説明した。
「ジャック、蝋人形は他の人形とは違うのです。我が国には蝋人形師がいますが、その者以外に蝋人形の制作は許されていません。なぜなら、王宮の特権だからです」
「贅沢品ってこと?」
「確かに彼らの給金は破格値ですが、理由はその制作方法にあります。蝋人形を造るにはまず粘土で型を取る。そして、その中に蜜蝋を流し込んで固めます。その表面を本物そっくりに細部まで着色し……仕上げに、モデルとなった人物の毛髪や爪を接着するのです」
ジャックはポカンと口を開けてグリンバルドを見た。隣に立つ侍女長は腕を組み、一段と顔を険しくする。
「つまり、我が国の蝋人形はモデルの死後に作られるのです」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる