スノウ・ホワイトは家出中

すなぎ もりこ

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「おいおい、止めてくれよ。まさか、その事件にドワーフ家が関わっているっていうのか?」
 ジャックはわが身を抱きしめ、両腕をさする。大きな身体を縮こめて怯える猟師を見て、グリンバルドは呆れた。
 普段は躊躇なく獣の命を奪い嬉々として皮を剝いでいるというのに。人を食ったような態度とは裏腹に、人の悪事にはめっぽう弱いと見える。
 侍女長はジャックには目もくれず話を続けた。
「そして、彼らの家と学校を結ぶ道の途中には、ドワーフ家の本宅があります」
「それだけの理由で疑うのはどうでしょうか」
「目撃証言があります。本宅から連れられてきた侍女がこっそり打ち明けてくれたそうです。令嬢たちに誘い込まれる被害者のひとりを見たと」
「見間違えでは」
 侍女長の過熱していく口調を危ぶみ、グリンバルドは眉を寄せる。しかし、彼女は止まらなかった。グリンバルドの胸に拳を当て、訴える。
「かどかわされた美しい少年少女と大量の蜜蝋です、グリンバルド様。この上なく禍々しくおぞましい組み合わせではないですか!」
 グリンバルドは短く息を吸い込んだ。しかし、浮かんだ考えを否定するように頭を振る。
「馬鹿な……侍女長、聡明な貴女にしては陳腐な推理だ。妄想の域を出ない」
「ドワーフ家のご息女たちは揃って美しいものが大好きなのです。彼女らの部屋は人形で溢れていたと言います。きっと造り物では飽き足らなくなったのです」
「……彼女たちが蜜蝋で人形を造っていたと? それが目的で子供たちを攫っていたというんですか? 馬鹿らしい、あまりに危険なお遊びです。公爵が許すわけがない」
 緊迫した雰囲気で見つめ合う二人の間に、ジャックがそっと割り込んだ。
「……なあ、人形のモデルにするだけなら子供たちはもう解放されている可能性があるよな。それか屋敷で雇われていたりして。口止めするより見張っていた方が確実だしさ……なに?! 俺なんか変なこと言ってる?!」
 グリンバルドと侍女長に厳しい表情で睨まれ、ジャックは狼狽える。侍女長は、はぁと息を吐き、図体ばかり成長した青年の頭を叩く。
「この物知らず! だからあれほど学校には通えと言ったのに。森に籠って罠ばかり仕掛けているから無知な大人になってしまったんだわ。テリーもテリーよ、散々甘やかして」
「親父は関係ないだろ―」
 口を尖らすジャックにグリンバルドは淡々と説明した。
「ジャック、蝋人形は他の人形とは違うのです。我が国には蝋人形師がいますが、その者以外に蝋人形の制作は許されていません。なぜなら、王宮の特権だからです」
「贅沢品ってこと?」
「確かに彼らの給金は破格値ですが、理由はその制作方法にあります。蝋人形を造るにはまず粘土で型を取る。そして、その中に蜜蝋を流し込んで固めます。その表面を本物そっくりに細部まで着色し……仕上げに、モデルとなった人物の毛髪や爪を接着するのです」
  ジャックはポカンと口を開けてグリンバルドを見た。隣に立つ侍女長は腕を組み、一段と顔を険しくする。
「つまり、我が国の蝋人形はモデルの死後に作られるのです」
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