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「なぜ引き止めなかったのです」
「知らねぇ間にいなくなってたんですよ。誰も気づかなかった」
 お抱え猟師は気まずげに頭を掻き、その隣で侍女長が俯いた。当主代理は腕を組みため息をつく。
「こちらから出向く前にスノウ様とドワーフ公爵が鉢合わせをしてしまったら、不味いことになります」
 ジャックは鼻を掻き、口をへの字に歪めた。
「手間が省けていいんじゃないですか。どうせ顔合わせをするわけだし」
「留守中に男が上がりこんでいたと知れば、良い気はしないでしょう。スノウ様の心証が悪くなる」
「しょっちゅう通って何泊もしていたのは事実じゃないですか。使用人が黙っているわけもない。きっとすぐにバレる」
 黙って顔を伏せていた侍女長が意を決したように顔を上げる。片目で見下ろすグリンバルドに向かい訴えた。
「私は反対でございます! 坊ちゃんをあの家に渡すなど!」
 物静かで冷静な侍女長が突然表した剣幕に、グリンバルドとジャックは動きを止め、揃って視線を向けた。侍女長は身体の前で組んだ手を震わせながら言葉を継ぐ。
「ドワーフ公爵はなぜあのような森深くに別荘を建てたのでしょう。まるで何かを隠しているようではないですか。私は気味が悪いとずっと思っていました!」
「落ち着け侍女長、別荘とはそういうもんだろ? 都会の喧騒からしばし逃れるための療養先なんだから、大概は静かな大自然の中に建てる」
 宥めるジャックをキッと睨みつけ、侍女長はグリンバルドに向き直った。そして、小さく息を吸った後に声を一段小さくしてゆっくりと告げた。
「ドワーフ公爵家のご息女たちはです」
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