スノウ・ホワイトは家出中

すなぎ もりこ

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 スノウは再び家を飛び出し、ドワーフ家へと逃げ込んだ。
 森の中から駆けてくるスノウを令嬢たちが目敏く見つけ、いつものようにわらわらと取り囲む。そして、いい匂いのするショールで包みこみ、口々に可哀想にと慰めながら、家の中へと引き入れた。
「大丈夫ですわスノウ様。スノウ様のことは私たちが一生守ります」
 ブラシで髪をときながら少女は囁いた。スノウは無言で小さく頷く。
「美しく着飾って差し上げますわ」
 爪にやすりをかけ終えた少女は立ち上がり、蜜蠟を手にした少女と交代する。スノウは肘掛に置いた指に視線を落とした。円形の木箱から蜜蝋をすくい上げ、丁寧に爪に塗り込む指先をじっと眺める。蜂蜜の甘い香りが匂い立つ。
「私たちが心を込めて毎日お手入れをいたします」
「スノウ様が美しくあられることが私たちの喜び」
 赤い薔薇の花びらをむしり取りガラスの器に放りながら少女が恍惚とする。
「決してスノウ様を穢させはしない」
「いつまでも美しくあれるよう、手を尽くしますわ」
 赤いワインをグラスに注ぎ、少女が差し出す。
「スノウ様はなにもされなくて良いのです。私たちにすべてお任せください」
 スノウはグラスを手に取り、一気に中身をあおる。次第に回っていく酔いを味わい、スノウのために作らせたという豪奢な白革張りの椅子に沈む。
 霞む視界には、笑みを浮かべて覗き込む七人の令嬢たちの顔。
 自分はまるでガラスケースに入れられた人形のようだと思う。
 多分、彼女たちは、スノウが生きていても死んでいても構わないのだ。中身などどうでもいい。
 ーーそんなことはとっくにわかっている。
 そう、このまま内臓を取り出されて蠟で固められ、人形になったとしても構わない。感情をなくしてしまえばきっと身の内の毒も消える。そうすれば、この目に映るのは美しい景色のみ。再びあの輝かしい世界の中で生きられるのだ。
 スノウは瞼を伏せた。
 もう、何も考えたくなかった。
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