スノウ・ホワイトは家出中

すなぎ もりこ

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 グリンバルドは胸ポケットから懐中時計を取り出すと親指で開く。時計盤を確認し、立ち上がった。
「申し訳ございませんが、私は出掛けねばなりません。続きはまたの機会にお願いいたします」
 スノウは腰を上げてテーブルを回り込み、グリンバルドの袖を掴んだ。
「話は終わっていない!」
「林檎園の地主との打ち合わせがあるのです。新規の卸先について業者も交えて話し合う重要な場です。遅れるわけにはまいりません」
「そんなに領地が大事か、父上との約束が大事か……!」
 グリンバルドはスノウの手を握るとそっと袖から離し、宥める。
「スノウ様、帰宅してからお聞きします。駄々をこねないでください」
「そうやっていつも子ども扱いして! 僕をほったらかして無能にしたのはお前だろう!」
「確かに甘やかしてはいたかもしれません。業務に追われ貴方への配慮が行き届かなかった、それは反省すべきことだと思っております。しかし……おや?」
 グリンバルドはスノウの手首を掴み、目の前に引き寄せた。もう片方の手で赤くなった小指の縁を辿る。スノウはびくりと身体を揺らした。
「赤くなっていますね。侍女長に薬を用意させます」
「……これくらい、どうってことない」
「大事なお身体です。貴方が傷つけば悲しむ者がいることをお忘れなく」
「誰のことを言っているのか知らないが、お前ではないことは確かだな。お前が最も優先すべきは領地の運営とこの家の存続だ。僕など二の次だ」
 グリンバルドは手を離して背を向けた。立ち尽くすスノウを残し、外套を手にして扉へ向かう。
「貴方がこの家を出ることを選ぶ以上、私がやるしかないでしょう」
 扉が開き、長身の後ろ姿が暗い廊下に溶けていくその刹那、彼は呟いた。
「私にはもう、この家しか残されていないのだから」
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