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 足音が聞こえ、頑丈なオークの扉が開く。部屋の主は、片方だけ覗く黒い瞳を見開いた。
「スノウ様、いかがなされました?」
 スノウは痛む右の手首を左手で庇いながら、グリンバルドを睨む。
「話がある」
 スノウのただならぬ様子に気づきながらも、グリンバルドは落ち着き払った動作で部屋の中に誘った。スノウはツカツカと歩を進め、応接用のソファにドカリと腰を下ろす。グリンバルドは向かいの椅子に静かに掛けた。長い足の上で手を組み、背筋を伸ばしてこちらを見つめる男としばし視線をぶつけ合う。
 しかし、先に逸らしたのはやはりスノウの方だった。
「僕をドワーフ家に婿入りさせるつもりなのか」
「ええ。数日中に訪問するつもりです。ドワーフ公爵が明後日から別荘に滞在されるとの情報を得ました。交渉するには良い機会でしょう。お嬢様方にも一度お会いしたいと思っておりましたし」
「……望みどおりになって、良かったな」
「私はスノウ様の望みを叶えるのです」
「これでこの家はお前のものになる。最初からそれが狙いだったんだろう? わざと僕の居心地を悪くして他所に行くように仕向けたんだ」
 フゥと小さく息を吐く音が、耳に届く。
「スノウ様がそのように感じていらしたとは。とても残念です」
 スノウは横を向きながらも、グリンバルドが語る声に集中していた。
「それでも、私のような者にこの家を任せるというなら引き受けるしかありません。せめて私の代では傾かぬよう尽力致しましょう。しかし、次代に関しては責任を持ちかねます」
 スノウはグリンバルドに顔を向け、黒い瞳の奥を探る。彼はわずかに目を細め、きっぱりと告げた。
「私は妻を娶るつもりはございません。スノウ様にお子様がお生まれになったら、いずれその方にお任せいただきたい」
 思いがけない申し出に、スノウは動揺し目を泳がせた。目の前にいる男の真意がますますわからなくなり、混乱する。
 ひどい仕打ちを受けた一家への復讐、乗っ取り、それがグリンバルドの目的ではないのか。事件のあとも家に仕え黙々と父の世話と領地経営を手伝っていたのは、本当にただの献身だったとでもいうのか。
「お前は馬鹿なのか? 片目を潰されてなお、この家に残り、尽くすなど意味がわからない」
「……そうですね、スノウ様には理解し難いことでしょう。でも、私にはここしか居場所がなかったのです。出ていくという選択肢はなかった」
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