スノウ・ホワイトは家出中

すなぎ もりこ

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「また来たのか。お前も懲りないね」
 青年は小首を傾げた。ウェーブした黒髪がバラ色の頬にさらりとかかる。
「スノウ様、御髪が」
 側にいた娘の一人が彼の髪を手に持っていた櫛で整えた。スノウはシアンの瞳を細め、白いスラックスに覆われた細い足を組みなおす。彼の動きに伴い、甘いバラの香りが押し寄せた。
 ジャックは鼻の下を指で擦り、眉を顰める。
「そう言われましても、グリンバルド様から命じられておりますんで。俺の顔を立てると思って、一度お戻り願えませんかね」
「ええ――お帰りになってしまわれるの? スノウ様。寂しいわ」
「スノウ様がいないとつまらない。生きている甲斐もないわ」
「スノウ様がいないと途端に世界が色を失うのよ。絶望しかないわ」
「お庭の薔薇もたちまち枯れてしまうわ」
 スノウの座る椅子を取り囲んでいた七人の娘が、口々に嘆き始めた。スノウは細い指を顎にかけ、長いまつげを伏せる。弧を描く赤い唇が妖しく艶めいた。
 いつもながら常軌を逸した美貌である。年頃の煌びやかな娘たちの中にあっても、わずかに霞むことなくひときわ輝いている。
ジャックは吸い寄せられそうになる意識を引き戻し、強めに頭を掻いた。
「お嬢様方、スノウ様は次期領主としてのお勤めがあるのです。それに、いつまでもこちらにご厄介になっているわけにはまいりません。飲食諸々の費用は後ほどお支払いいたしますが、仮にも当家の主人がまるで居候のような真似をしているなど恥でございます」
 スノウは繊細な造形の鼻をフンと鳴らす。縋りつく娘たちに身体を預けながら、つまらなそうに吐き捨てた。
「どうせグリンバルドの受け売りだろう。いつの間にあの男の手下に成り下がったんだ? 付き合いは僕の方が長いはずだが?」
「そりゃあ、俺は坊ちゃんが生まれる前から親父共々仕えていますからね。坊ちゃんのことは良く知っています。それこそ可愛いお姫様だった頃からね」
「……そのことは口に出すなと言ったはずだ」
 スノウは美しい眉を寄せ、肘掛に置いた指に力を込める。イライラとブーツの爪先を床に打ち付け、タイルを鳴らした。
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