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ローエンという国ができる前、長のいない村々の集まりだった。

人々は、国を成すために戦った。
何故、そのようなことがはじまったのか、わからない。
だが、我が村が一番と争う中、戦で命を失った人々の怨念の塊ができた。
それに引き金を引くように、流行り病で無念とこの世に残った亡霊と怨念の塊が合わさり、怨霊となって悪さをしはじめた。
流行り病で死んだ人々が、別の人格で腐った身体で起きだしたのだ。

そんな混乱を収拾しはじめたのは、戦に介入していなかった村の実質、長のような存在の巫女が治める村の人々だった。
術で怨霊達を生身から引っ張り出し、弓や刀で薙ぎ倒す姿に、巫女は戦巫女という名で呼ばれるようになった。
その厳めしい名とは反対に、人々に親しまれた戦巫女は、怨霊の掌握しょうあくにより、村々を統治してローエン国とし、女王となったのだ。

初代戦巫女の世は、ローエン国は先の諸々に気を遣られ、鎖国状態に近い状態だった。
というのも、戦巫女の国と隣国では文化が異なっていた。
戦巫女の国は、着物という民族衣装を纏い、床に直に座り、そのため机の脚は短い。
隣国の全ては、洋服――ズボンやブラウス、ドレスという服を着、イスというものを使い座り(近いものはあったが)、それに伴い机の脚は長い。
顔立ちは戦巫女の国は大体のっぺりが多く、黒目黒髪で平均的に背が低いのに対し、あちらは金や赤、緑や青など虹のようで顔立ちもなかなか濃かった。
それに、村々の集まりを一つにするので手一杯だと初代戦巫女は言っていた。

だが、それは名目上で、実は、怨霊達は隣国まで手を伸ばしていたため、国境にはローエン国を忌み嫌う者達が多くいた。
黒髪黒目で出がローエン国と聞けば、怨念達の存在が色濃く、連想してしまう者も多かった。
そのため、初代戦巫女が拒んでいるということは本当はなく、国民のためだったことは暗黙の了解だった。

少しずつ慣らす。ということで国民が過去から未来へ心を決め、そろそろ開国をと声が上がり始めたのは、実は最近だ。

半鎖国状態から国が開かれた時、事件が起きた。
前戦巫女とその夫が、暗殺されてしまったのだ。
十歳の娘は、難を逃れた――といって良いのか、突如としてローエン国から消えた。
しかも、皆が見ている前で忽然と。

《神隠し》。
戦巫女の国ではそう言われるもがある。
姫といえる娘が、行方不明となったそれもその部類に入っていた。

「帰りを待とう」

そう声が上がり、誰も異論も疑問もなかった。
《神隠し》された子供は、時々、どこからともなく帰ってくるときがある。
反対に、《神隠し》ならば人の人智では到底、どうしようもない。

なので、姫ももしかすると……というのが皆の意見だ。
幸いか、戦巫女の座に就こうとする野心家は居らず、優秀な臣下達が当分、政を受けおった。
不穏因子はあったものの、もともと村々で機能していたこの国は順調に事を進めていった。

そして数年後、帰ってきた姫は、品の良い深窓の令嬢ではなくなっていた。
なにか、化け物じみ、神懸かりな術を使い、国民の度肝を抜く事になったのであった。

それが、ローエン国、現戦巫女のツバキである。
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